本記事のポイント
・法律・命令・施行規則などの「法令」の階層構造の理解が重要
・本人確認の実務では「法律」に基づいて具体的な手順が規定されている「施行規則」が最大のチェックポイント。
・公布とは法律の成立を国民に知らせる行為を指し、施行とは「この日から実際にルールとして効力を持つ」という意味を指す。
eKYCや本人確認に関する記事を読んでいると、「公布」「施行」「法令」「施行規則」「ガイドライン」といった法律用語が頻繁に登場します。
法律に関わる職種では当たり前に使われがちな言葉ですが、それぞれが何を意味し、どのような形で業務に影響するのかが一般的にわかりにくいのではないでしょうか。
本記事では、本人確認業務を行ううえで最低限押さえておきたい法律用語について、時系列と効力の観点から整理します。
※本記事は、記事公開日時点の情報に基づいて記載しております。
「法令」を理解する
本人確認やeKYCの規制を考える上で、まずは「法令」を理解するのが良いでしょう。
法令とは一般的に、国会が制定する「法律」と、国の行政機関が制定する「命令」(政令・省令など)の総称として使われている言葉です。
国内には現在、2,000強の法律が存在します。憲法の次に形式的効力を持つ、国として守るべきルールとして、国会において定められたものが法律です。
ただし、法律はあくまで大きな方針を定めたものと言え、それだけを読んでも、日々の業務にどう落とし込めばいいのか分かりにくく、記載内容に対する “解釈” が発生します。解釈の余地が広いほど、想定していた解釈を逸脱する可能性も高まってしまいます。
そこで、法律の内容をより具体的に補うのが、命令や施行規則です。
政令(施行令)・府令/省令(施行規則)について
政令は、命令の中でも、法律の委任を受けて内閣が制定するルール・規範です。法律に「詳細は政令で定める」と書かれている場合、その“詳細部分”を補います。
また府省令とは、内閣総理大臣が制定する「府令」や、各省の大臣が制定する「省令」を指します。政令や法律をさらに具体化します。施行規則も命令の一種であり、名前の通り、「法律や省令を実際に施行するための具体的なルール」を定めたものです。これらは一般的に「府省令」の形式で定められ、行政機関が制定する規範の中では、政令(施行令)よりも下位に位置づけられます。
ここまで法令の体系をまとめると、以下のような階層構造になっています。
・憲法:日本の最高法規
・法律:国会が制定
・命令:行政機関が制定
-政令(施行令):内閣が制定
-府令・省令(施行規則):内閣総理大臣や各省の大臣が制定
本人確認領域では施行規則が特に留意するべきポイント
本人確認領域では、この中でも施行規則が特に留意するべきポイントになると言えます。具体的な実務に直結する内容が、施行規則に定められていることが多いからです。
たとえば、本人確認における規制の例として、犯罪収益移転防止法(正式名称:犯罪による収益の移転防止に関する法律)を考えてみます。
犯罪収益移転防止法では、金融機関や各士業の法人など「特定事業者」と呼ばれる対象事業者が、通常の特定取引およびハイリスク取引を行う際に、「取引時確認」と呼ばれる手続きなどを法的義務として負うこととして定義されています。
その取引時確認事項の中に本人特定事項が定められていることから、明確なルールに沿った本人確認の実施が求められています。
一方で、犯罪収益移転防止法の法律を読んでも、その具体的な手法については言及がありません。たとえば、「どの方法が対面・非対面として扱われるのか」といった内容については、法律そのものではなく、下位の施行規則(犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項第1号)にて以下のように定められています。
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イ |
対面にて写真付き本人確認書類1点の提示 |
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ロ |
対面にて写真なし本人確認書類1点の提示 |
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ハ |
対面にて写真なし本人確認書類2点の提示 |
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ニ |
対面にて写真なし本人確認書類1点の提示 |
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ホ |
専用ソフトウェアにて、写真付き書類の写し1点(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの)の送信 |
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へ |
専用ソフトウェアにて、写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信 |
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ト |
専用ソフトウェアにて、写真付き書類の写し1点(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの)の送信 or 写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信 |
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チ |
本人確認書類の原本1点の送付 or 写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信 or 専用ソフトウェアにて写真付き書類の写し1点(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの)の送信 |
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リ |
本人確認書類2点の送付 or 本人確認書類の写し1点+補完書類1点の送付 |
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ヌ |
※給与振込用口座の開設、または有価証券取引でマイナンバー取得済みの場合が該当 本人確認書類の写し1点の送付 |
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ル |
カード代替電磁的記録を構成する電磁的記録のうち氏名、住居、生年月日、写真情報の送信 |
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ヲ |
本人限定郵便(受取時の確認書類は、写真付き本人確認書類である必要ありのもの) |
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ワ |
電子証明書+電子署名 |
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カ |
公的個人認証(電子署名) |
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ヨ |
特定認証業務の電子証明書+電子署名 |
※こちらは、2025年6月24日〜2027年3月31日にかけての内容です。詳細は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
このように、法律や政令などが「考え方」や「枠組み」を示すものだとすれば、施行規則は「現場でどう動くか」を定めるルールだと言えます。そのため、eKYCの導入や本人確認フローの見直しを行う際には、法律の条文だけでなく、必ず施行規則まで確認する必要があります。
「公布」と「施行」の違いを実務目線で理解する
法律に関する話題で混乱しやすいのが、「公布」と「施行」の違いです。
公布とは、「この法律が成立しました」と国民に公報などを通じて知らせる行為です。一方、施行とは、「この日から実際にルールとして効力を持ちます」という意味になります。
公布されたからといって、すぐに業務を変えなければならないわけではありません。多くの場合、公布から施行までには一定の期間が設けられ、その間に事業者側が準備を進めることが想定されています。
たとえば、以下の記事にあるような犯罪収益移転防止法の改正対応をする場合においても、「施行日がいつか」を正しく把握し、その日までに体制やフローを整えることが重要になります。
▶︎【2025年6月施行】&【2027年4月施行】改正犯罪収益移転防止法で変わる!本人確認手法の変更ポイントを解説

ガイドラインとは
ここまでお伝えしてきた法律や府省令と異なり、ガイドラインは、必ずしも直接的な罰則を伴う強制力を持つものではありません。しかし、実務上は非常に重要です。
ガイドラインは、「法律や政令、施行規則などの趣旨を踏まえると、その業界を監督している行政庁が実務ではこのように対応するのが望ましい」という考え方を示すものとして機能します。日本語では「指針」と表現されることもあります。
監督や検査の場面では、ガイドラインに沿っているかどうかが一つの判断基準になることもあります。そのため、「守らなくてもいい資料」と軽視するのではなく、実務の指針として理解しておくことが求められます。
ちなみに本人確認領域においては、一般社団法人OpenIDファウンデーション・ジャパンが公表する「民間事業者向けデジタル本人確認ガイドライン」というものがあります。
こちらは、自社サービスの特徴に応じた本人確認手法を選択するためのガイドブックとしての活用を想定して作成されたもので、本人確認の導入・選択に必要な基礎知識のまとめや、本人確認手法の特徴の整理、さらにはマイナンバーカードや本人確認を巡る最新動向などをはじめとした内容が盛り込まれています。
そのあらましが以下の記事にまとめてありますので、あわせてご覧ください。
▶︎民間事業者向けデジタル本人確認ガイドラインとは?対象や目的などポイントを解説
制度づくりに参加するパブリックコメントの仕組み
法律や省令、ガイドラインが定められる前には、「パブリックコメント」が実施されることがあります。
パブリックコメントとは、その業界を監督している行政庁(以下「行政機関」)が法律や政令、省令、ガイドラインなどを新たに制定・改正する際に、その案を事前に公表し、広く国民や事業者から意見を募集する制度です。日本語では「意見公募手続」とも呼ばれています。
行政機関が一方的にルールを決めるのではなく、実務や社会への影響を踏まえた制度設計を行うことを目的としています。
具体的には、省庁が制度案を公表し、一定期間、誰でも意見を提出できる形で実施されます。提出された意見は原則として公開され、行政機関はそれらを踏まえたうえで最終的な制度を決定します。
すべての意見がそのまま反映されるわけではありませんが、内容によっては制度案の修正や補足説明につながることもあります。
本人確認やeKYCの領域では、技術の進化や業務実態と制度とのズレが生じやすいため、パブリックコメントは特に重要な意味を持ちます。現場の実務を担う本人確認事業者らが意見を出すことで、過度に厳しい要件や実態に合わない運用が見直される可能性があります。
このように、制度を「与えられるもの」として見るだけでなく、「関わるもの」として捉える視点も重要です。
それぞれの役割と関係性の整理・理解が大切
本記事では、eKYCや本人確認業務を理解するうえで欠かせない法令用語について、体系的に整理しました。
公布、施行、施行規則、ガイドラインといった法律用語は、一見すると難しく感じられますが、それぞれの役割と関係性を整理すると、eKYCを取り巻く制度の全体像が見えてきます。
本記事での内容を踏まえて、ぜひ、TRUSTDOCKのeKYCコラムをチェックしてみてください。
※eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々のために、TRUSTDOCKではPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しております。eKYC導入までの検討フローや、運用設計を行う上で重要な検討項目などを、計10個のポイントにまとめていますので、こちらもぜひご活用ください。
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