馬車から自動車、蒸気機関車から新幹線、そして飛行機や有人ロケットなど、技術進歩の歴史は、そのまま移動の進化の歴史だと言っても過言ではないでしょう。そして最近では、ここに「シェアリング」の概念が加わり、新たな移動のあり方が次々と誕生しています。
カーシェアやライドシェアはもとより、シェアサイクルや電動キックボードシェアサービスなど、これまで「所有」が前提となっていたモノとしてのモビリティが、次々と「利用」するサービスへと進化しているのです。
今回は、そんなモビリティのシェアリングエコノミー領域における本人確認について。免許証チェックから、より認証強度の強いeKYCまで、各事業者はどのような目的と手法でeKYCサービスを導入しているのか、それぞれ解説していきます。
カーシェア・ライドシェア等の現在地
モビリティのシェアリングエコノミーには、主に道路交通法・道路運送車両法における自動車・原動機付自転車が対象となる運転免許証の所持が必要なサービスと、それ以外のモペットを除く自転車(軽車両)等が対象となるサービスがあります。前者にはカーシェアやライドシェア、電動キックボードが該当し、後者にはシェアサイクルが該当します。
運転免許が必要なサービス | カーシェア、ライドシェア、電動キックボードシェアリング |
運転免許が不要なサービス | シェアサイクル |
カーシェアとライドシェア の違い
カーシェアとライドシェアは言葉が似ているので、同じ内容のサービスとして捉えている方を多くお見受けしますが、その提供形態や国内市場規模、そして規制状況には大きな違いがあります。
カーシェア(カーシェアリング)とは、同一プラットフォームの会員間で自動車を共有して利用するサービスのことで、業態としてはレンタカーの一形態となります。一方でライドシェア(ライドシェアリング)とは、いわゆる「相乗り」のことで、プラットフォーム上でドライバーと、同じ目的地に移動したい人をマッチングするサービスとなります。
富士経済が2020年3月に発表した調査結果によると、特にカーシェアの市場規模は将来性が明るく、ステーション数も首都圏を中心に増加していることから、2030年の国内市場規模は4,555億円に達する(2018年で11.9倍)になると予想されています。またライドシェアサービスについても、調査会社のReport Ocean社が発表したデータによると、世界のライドシェアリング市場は2021年から2027年の予測期間にて平均年間成長率20.21%以上の健全な成長が見込まれるとしています(2020年時点の世界市場規模は890億5,000万ドルと記述)。
ただし、日本国内に関してお伝えすると、ライドシェア事業の規制ハードルは他国に比べて高く設定されています。日本においては、一般の人が自家用車を用いて有償で他人を運送することは「白タク」になるので、道路運送法第78条により禁止されているのです。厳密には、災害発生により緊急を要する場合と、市町村やNPO法人等が公共の福祉を確保するため区域内の住民の運送を行う場合を除いて、旅客自動車運送事業を営む場合は、国土交通大臣の許可が必要となります。よって現状は、ガソリン代や高速道路利用料などといった実費の範囲内に制限したお金のやりとりだけを行うライドシェア業が、国内では主に展開されています。
電動キックボードの規制緩和について
電動キックボード(キックボードに取り付けられた電動式のモーター(定格出力0.60キロワット以下)により走行する乗り物)については、2022年1月時点で、道路交通法および道路運送車両法において「原動機付自転車」という位置付けになっています。
ただし、所管である警視庁は2021年12月23日に、時速20キロ以下で走行する電動キックボードについては、16歳以上の場合に限って運転免許を不要とする方針を固め、今後は「自転車」と同じ扱いにすると発表しました。今後、2022年の通常国会にて道路交通法の改正案を提出する方針とのことで、同法改正時には運転免許が不要になる他、ヘルメットの着用についても努力義務となる見通しです。
カーシェア・ライドシェア等でeKYCが活用される理由
カーシェアやライドシェアといった運転免許が必要なサービスでは、運営事業者によるユーザーの運転免許証チェックが必要となります。基本的にはスマホアプリやWebブラウザ上の管理画面から利用するものとなるので、必然的に、免許証チェック業務もオンラインでシームレスに行えるeKYCの仕組みの活用が期待されています。
また運転免許の必要・不要にかかわらず、昨今ではCtoCのマッチングや取引を行うシェアリングサービスにおいて、利用者による不正等を防ぐための安全・安心に向けた本人確認実施の必要性がさけばれています。eKYCサービスを活用することで、各サービスにフィットした本人確認強度をもって「どこのどなたがサービスを使ったか」という情報を把握し、有事の際にも迅速に対応することができるようになります。
このあたりのCtoCシェアリングサービスの安全・安心に関わる議論については、以下のベントレポートも併せてご覧ください。
ポストコロナの「信頼のデザイン」とは?シェアエコメンバーと共に考える 〜SHARE SUMMIT 2021レポート
eKYCサービスを導入するメリット2つ
先述したとおり、各種モビリティのシェアリングサービスは基本的にはオンライン/遠隔でのやりとりがベースとなるので、インターネットを活用した免許資格確認および本人確認が必要となります。自社で独自にチェックフローを開発して運用することも可能でしょうが、以下の観点において、昨今ではeKYC事業者によるソリューションを採用するケースが増えています。
各種コストの削減
自社内で免許資格確認業務および本人確認業務を行う場合、そこに対する適切な人員配置が必要となります。書類の扱いに関するオペレーション教育はもとより、ユーザー登録者数の増減に合わせたシフト管理等が必要となるため、それらの工数も含めた人員および管理コストはばかになりません。
eKYCを導入することで、社内オペレーションが大幅に減少し、かつ登録者数の増減に左右した人員配置等を行わなくて済むようになるので、これらに付随するコストの削減が見込めます。
本人確認書類の自社保管不要
モビリティシェアリングサービス事業者が運転免許証など公的身分証明書画像の送信等を受けた際に、それらを自社保管する場合は、非常に厳格なセキュリティ対策を講じる必要があります。特に免許証などの画像データが外部へと漏れた場合は、中長期的な悪用へとつながる恐れがあることから、企業経営の観点から見ても自社での保管は非常にリスキーだと言えます。
一方でeKYC事業者は、当然ながらこれらデータへのセキュリティを最高レベルで維持した上で管理をしているので、モビリティシェアリングサービス事業者はeKYCサービスを導入することによって、より安全・安心な運用を担保することができます。
カーシェア・ライドシェア事業者でよく使われるeKYC手法
カーシェアやライドシェア事業者では、個人身元確認情報として公的身分証をサービス画面経由で提出するというeKYC手法が、最も多く利用されています。TRUSTDOCKのeKYCソリューションでは、本人確認書類の写し画像の送信や本人の容貌を撮影した画像データの送信など、必要な情報の送信を任意の設計で受けることができる仕様となっています。
TRUSTDOCKでは、お使いのサービスに合わせる形で、処理画面を作成いただく形でご提供しています
また、免許資格のチェックの他に、より認証強度の強い本人確認を実施する方法として、犯罪収益移転防止法に準拠した手法が採用されることも多いです。具体的には、施行規則六条1項1号に記載されている14パターンの手法のうち、「ホ」「ヘ」「ワ」が多く採用されています。
ホ | 専用ソフトウェアにて、写真付き書類の写し1点(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの)の送信 + 容貌(本人確認時に撮影されたもの)の送信 |
ヘ | 専用ソフトウェアにて、写真付き・ICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信 + 容貌(本人確認時に撮影されたもの)の送信 |
ワ | 公的個人認証(電子署名) |
この3手法の詳細については、以下の記事で動画とともに個別解説していますので、併せてご覧ください。
よく使われるeKYC手法【4選】。100社以上の運用実績から見えてきた傾向を解説
本人確認のプロであるTRUSTDOCK
以上、今回はカーシェア・ライドシェア等のモビリティシェアサービス事業で求められる本人確認のポイントについて解説しました。各方面での規制緩和の動きも相まって、市場としては間違いなく拡大していく領域だからこそ、eKYCへのニーズもますます高まっていくことが想定されます。
TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションを提供し、またデジタル身分証のプラットフォーマーとして様々な事業者と連携しております。インターネット異性紹介事業におけるKYCやeKYC、およびインターネット異性紹介事業に当てはまらないサービスでも本人確認業務等でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
金融庁には業務内容の確認を、経済産業省とはRegTechについて意見交換し、さらに総務省のIoTサービス創出支援事業においては本人確認業務の委託先として採択されました。もちろん、警察庁には犯収法準拠のeKYCの紹介等、行政や関連協会と連携して、適切な本人確認業務への取り組みを行っています
また、eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々のために、TRUSTDOCKではPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しております。eKYC導入までの検討フローや、運用設計を行う上で重要な検討項目等を、計12個のポイントにまとめていますので、こちらもぜひご活用ください。
なお、以下の記事でKYCおよびeKYCについても詳細に解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
KYCとは?あらゆる業界に求められる「本人確認手続き」の最新情報を徹底解説
(文・長岡武司)