「誰一人取り残されないデジタル社会」に必要な取り組み姿勢とは。産官学それぞれの視点 〜超DXサミットレポート

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更新日: 2022/09/28

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     2022年9月6日〜8日にかけて、東京・日本橋の会場とオンライン配信のハイブリッド提供で開催された、日経新聞社主催カンファレンス『超DXサミット』(Super DX/SUM、読み方:スーパー・ディークロッサム)。

     「業種を超えて結合するDXが世界を変える」というテーマのもと、金融・農業・エネルギーといった幅広い業態におけるテクノロジー領域に関わる事業者や当局者などがオンライン・オフラインで参加しました。

     本記事では、TRUSTDOCK 代表取締役CEOの千葉 孝浩が登壇したパネルセッションについて、ポイントを絞ってレポートします。利用者がプラットフォームの中心にいて、安全な環境の中で自らの個人情報や行動履歴を活用できるデジタル社会は実現できるのか。産官学それぞれの有識者より、課題と解決の糸口に向けたディスカッションがなされました。

    パネル:「デジタル社会の“コペルニクス的転回”  〜利用者がプラットフォームの中心となる世界は来るか」

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    • 徳山 真旭(AnchorZ 代表取締役 CEO)
    • 池辺 将之(北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授/北海道大学附属病院 次世代遠隔医療システム開発センター 副センター長)
    • 牛田 遼介(金融庁 総合政策局フィンテック参事官室 イノベーション推進室長)
    • 千葉 孝浩(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)
    • 日置 巴美(弁護士法人三浦法律事務所 パートナー・弁護士)※モデレータ

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    目指すべき「デジタル社会」とは?

    superdxsum02日置 巴美氏(弁護士法人三浦法律事務所 パートナー・弁護士)

     セッションの冒頭では、モデレーターの日置 巴美氏が、社会のデジタル化に伴う変容とその課題について、イントロダクションを説明しました。

     たとえば昨今ではSociety 5.0時代に向けたリアル空間とデジタル空間の融合が進んでいることで、既存のルールや責任分配の変容も必要になってきていると言えます。本人確認の世界で考えると、「対面とデジタルとでは、チェックするポイント・責任分配のあり方は違ってくるものだ」と言え、それゆえに、デジタル社会にフィットした機能を実装した際に、その動きについていけない人も出てくることが懸念されます。このような、デジタル社会の深化におけるボトルネックを探り、具体的にどのような対応をするべきなのかを検討することが大切だと、日置氏は説明します。

     その前提で、最初のテーマとして「目指すべきデジタル社会とは?」について、各登壇者が意見を寄せました。

    superdxsum03池辺 将之氏(北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授/北海道大学附属病院 次世代遠隔医療システム開発センター 副センター長)

     北海道大学で教授を務める池辺 将之氏は、「デジタル社会を言葉で納得する形で説明できるか」が大事だとして、その際に有用なのが「SF」であると説明します。

     たとえば映画『アイアンマン』では、主人公扮するロバート・ダウニー・ジュニアが、いわゆる「デジタルツイン」を活用してパワードスーツ(アイアンマンになるためのアーマー)を自分で開発するシーンがあります。映像なのでより直感的に「デジタルツインで何ができるか」を理解できるわけですが、このように「なんとか言葉で具現化することが第一歩になる」と、池辺氏は強調します。

    「同じ要領で『認証とは何か』ということも、どうやって言葉に落とし込めばいいのかを日々考えています。たとえばメタバースだと、自分を偽ってその世界に入るわけですが、要するにそれは幽体離脱みたいな形で魂がデジタル社会の中に入っていくことだとも言えます。幽体離脱って、アニメや漫画ではだいたい、頭とかに紐のようなものがくっついていて、離脱した本体とつながっていますよね。つまりデジタル社会における認証システムとは、魂と本体を結ぶ“紐”のようなものではないかとイメージしています」(池辺氏)

    superdxsum04千葉 孝浩(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)

     これに対してTRUSTDOCKの千葉も、自身がかつて漫画家を目指していたことに触れながらSF思考の大切さに同意しつつ、令和時代はデジタル化をより「多層的」に捉えることが大切だとコメントします。

    「よくよく考えると、21世紀になってからすでに20年以上が経過し、デジタル社会も相応に時間が経っています。となると、一次元的にデジタル社会を表現するのは難しく、より『多層的』になっていると感じます。先ほどのデジタルツインのようにリアルとデジタルがシームレスにつながるような話があれば、メタバースのようにデジタルファーストで匿名性が高い話もあるでしょう。インターネット空間も、一次元的に語れる時代は数年後にはないかも知れません」(千葉)

     それこそ平成ではデジタル社会という言葉が何度も使われていましたが、平成のデジタル化は「機械に人が合わせにいった歴史である」と、千葉は続けます。

    「平成で最も成長した産業の一つがメンタルヘルスだと思っていまして、要するに、『定刻通りに来るのが当たり前の電車』に象徴されるように、ITやICT活用の面でも、社会全体で減点式の業務が増えたわけです。これに対して令和では、人を中心にしたデジタル社会にしていく必要があると考えていまして、まさに僕ら自身がそれを構築していかねばならない立場にいると、日々実感しています」(千葉)

    superdxsum05徳山 真旭(AnchorZ 代表取締役 CEO)

     さらにAnchorZの徳山 真旭氏は、ご自身の経験を参考としながら、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に向けた技術者としての姿勢をコメントしました。

    「私自身は1983年くらいからMacintosh(マッキントッシュ)をいじり始めたわけで、比較的デジタルに詳しい人間でした。そんな私から見ていつまでも発生するのが、フィッシング詐欺に引っかかる人です。その人たちは決して頭が悪いわけではなく、とにかく興味がないわけなんです。ECショッピングの際には平気でフィッシングサイトでクレジットカード情報を入力してしまうし、それで『なんでもかんでもボタンを幼いほうが良い』とアドバイスすると、今度は必要なOSアップデートを一切やらないという具合です。デジタル社会においては、決してこの人たちを見捨ててはいけませんし、我々技術者がそこをやるべきだと考えています」(徳山氏)

    デジタル社会の進展から見えてきた課題は?

    superdxsum06牛田 遼介(金融庁 総合政策局フィンテック参事官室 イノベーション推進室長)

     では、具体的にどのような課題がデジタル社会に向けて存在するのか。これについて金融庁の牛田 遼介氏は、2021年3月に作成された報告書「ブロックチェーン技術等を用いたデジタルアイデンティティの活用に関する研究」の内容をもとに、例として欧州諸国が取り組むID連携サービスにおける責任分界について説明します。

     同報告書(111〜112頁)によると、EUにおいては本人確認済もしくは高認証レベルの情報に限定してIdP(Identity Provider)が責任を負い、そうでない場合(本人未確認情報の場合)はRP(Relying Party)が責任を負うという仕組みになっている。また北欧諸国についても、認証レベルの高低によって責任の所在をIdPとRPに分界しています。

    「報告書に記載されている課題の一つが、先ほど日置さんがおっしゃった『責任分配(分界)』の話です。ここで挙げられているEUの話はあくまで一つのやり方であって、どういう責任分配のやり方が良いかはユースケースによって変わってきます。ただ、このように『どういうアイデンティティであるべきか』を考えることが大切だと言えます」(牛田氏)

     このように責任を分界していった先の一つの姿として、昨今の暗号資産界隈における個人の動きを考える必要があると、牛田氏は続けます。

    「個人がウォレットの管理をして、そこに各種クレデンシャル情報も入れておいて、必要なときに必要な情報だけを提示するという運用がすでに行われています。プライバシー的に非常に理にかなっている運用である反面、金融庁的には、大きく規制の枠組みを見直す必要があるとも考えています。というのも、従来の規制は仲介者を念頭に置いており、業規制をするという考え方が前提になっているわけですが、個人でウォレット管理をする世界の場合は『誰が責任を取るのか』という部分が非常に難しい問題だと感じています。エンフォースメントの観点でも、個人に責任を問うことには限界があり、これまで以上に様々なアクターが出てくる中で、金融庁としての対話相手を誰にするべきかを、日々悩みながらやっています」(牛田氏)

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     この話に付随して、千葉も「確かめる側」である企業サイドのオペレーション設計と、「名乗る側」である個人に対する設計を両輪で進めることの大切さを説明します。

    「日々eKYC等でお客さまの本人確認をご支援していると、それぞれの業法で確認しなければならないことが違う中で、日本社会はそれをしっかりとアナログで整備していることを日々感じます。業務プロセスを整備するという点で、日本は非常に能力があると感じているからこそ、デジタル社会の業務整理も本質的には得意だと感じています。

    その前提でデジタル社会を考える上では、企業がやるべきこととご本人のデジタルIDやウォレットなどの両輪が滑らかに紐つかないと、なかなか上手い設計がしにくと考えています。確かめる側のプロセスはアナログでしっかりと整備されていますが、どうしても環境に依存する部分があることから、デジタル化は結構重いなとも感じています。ここは胆力を持って、腹をくくってみんなでデジタル化を進めていかないと、パズルのピースははまらないなと思っています」(千葉)

    デジタル社会を深化させるためには?

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     最後にラップアップとして、各登壇者より「デジタル社会の深化」に向けた考えやアドバイスがなされました。

    「デジタル化社会が進んでいくことで、特にBtoBの世界では焦燥感や危機感を持っている会社が多いと思いますが、私としては『あとは動けばいい』ところだと思っています。今回のテーマが“コペルニクス的転回”ということで、コペルニクスはちょっとずつ星を見ながら『きれいに動く』ということに気付いたと思うんですね。その気づきをいかにみんなで共有するかが大切だなと感じます。つまり、『デジタル的な小さな幸せ』を探していくことの積み重ねが大事なのかなと考えています」(池辺氏)

    「このセッションの控室で千葉さま・池辺さまとお話をする中でウンウンと感じたことですが、ユーザーはちょっとでも分からないことがあるとすぐに辞めてしまいます。だからこそ、最高のUI/UXが必要となります。スマホではアプリをいかようにも作ることができるので、ユーザーにとって簡単ですぐに使えることが、深化に向けて重要なことだと考えています」(徳山氏)

    「一言でお伝えすると、みんなでトラストのフレームワークを作っていくことかなと思っています。その中で、私たちは環境整備をやっていきますし、いろいろなコンフリクトをどう解決していくかについてはビジネスの人たちに知恵を出してもらい、根本的な技術の発展については池辺先生のようなアカデミアの視点からお話をもらうというところなんだと思います。もう一つ加えるならば、個人的には社会規範(Social Norm)も大事だと思っており、メタバース上であるべき規範とはどのようなものなのかはケースによって変わってくるでしょうから、いろいろな色々なニーズに応じて安心できる場所になるようにみんなで頑張っていくことが大切だと考えています」(牛田氏)

    「選択肢があるデジタル社会を作らなければいけないと考えています。ゲーム1つ考えても、オープンワールドを舞台にしたものもあれば、ルートが決まったものもあります。多様な選択肢のあるアナログな世界をマッピングしにいくのであれば、オープンワールド的に多様な選択肢があることで、それこそ『誰一人取り残されない』デジタル社会になるのではないかと考えております」(千葉)

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     TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションを提供し、またデジタル身分証のプラットフォーマーとして様々な事業者と連携しております。府省庁においては、金融庁には具体的な業務内容の確認を行い、総務省のIoTサービス創出支援事業では本人確認業務の委託先として採択されました。また、警察庁には犯罪収益移転防止法準拠のeKYCの照会等を行い、経済産業省とはマイナンバーカードを活用した実証実験や省内開催の研究会等でご一緒しています。

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     eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々に向けてはPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しており、eKYC導入までの検討フローや運用設計を行う上で重要な検討項目等を計12個のポイントにまとめていますので、こちらもぜひご活用ください。

    eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト

     

     最後に、eKYCの詳細については以下の記事でも詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

    ▶︎ eKYCとは?オンライン本人確認を徹底解説!メリット、事例、選定ポイント、最新トレンド等

     

    (文・長岡武司)

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