2022年3月29日〜31日にかけて開催された、金融庁と日経新聞社が2016年より共催してきた国内最大級のFinTech & RegTechカンファレンス「FIN/SUM2022(読み方:フィンサム)」。
レポート後編となる本記事では、TRUSTDOCKが単独でプレゼンテーションを実施したシンポジウムデモステージの様子をレポートします。
テーマは「デジタル身分証サービス」。ここ数年で飛躍的に高まっているデジタルアイデンティティの話題に触れながら、TRUSTDOCKが考えるデジタル社会形成の「前提」について発表がなされました。
デジタル庁推進「次世代取引基盤構想」で考えるべき本人確認領域の論点とは
急速に増加するデジタルな取引・手続きとeKYC
TRUSTDOCKでは、KYC(本人確認)の専門機関として、多様なUIと様々なAPIの組み合わせによるKYCソリューションを提供しています。具体的には上図に示しているとおり、個人身元確認APIから口座情報確認API、個人番号(マイナンバー)取得API、反社リスク確認APIなど、個人と法人を問わず、顧客のKYCにまつわる様々なAPIをご用意しています。
一昔前であれば、このようなKYC業務は対面によって行われることが主流でしたが、ここ数年の急速なデジタル社会化に伴い、オンラインによる本人確認、いわゆるeKYC(イーケイワイシー)導入の機運が非常に高まっています。特に、2018年10月に施行された改正犯罪収益移転防止法におけるeKYC手法の追加が、その動きを強く後押ししたと言えるでしょう。
「どうすればデジタル上の取引・手続きをもっと簡便に、そして、もっとなめらかにできるのか?そんなことを日々考えている中で感じていることは、企業側だけを法規制で締め付けてもうまくいかないということです。つまり、もっと『個人側』を支援していかないと、本当の意味でのデジタル社会にはたどり着かないと考えています」(千葉)
ここで出てくるキーワードが「デジタルアイデンティティ」です。デジタルアイデンティティという言葉には、Self-Sovereign Identity(自己主権型アイデンティティ)やPDS(パーソナルデータストア)をはじめ、様々な論点が存在しますが、TRUSTDOCKとしては、各国の法律や規制に準拠しながら進める「Regulatory Digital Identity」の考えが必要だと捉えています。つまり、技術ドリブンではなく、各リージョンのレギュレーションに沿った、地に足のついたデジタルアイデンティティの構築が必要だということです。
デジタルtoデジタルな社会で大切な、『名乗る側』と『確かめる側』の関係
このRegulatory Digital Identityを考えるにあたって大切な概念が、『名乗る側』と『確かめる側』という関係です。『名乗る側』とは、すなわち本人確認をされる側のことで、ここまでの話でいうデジタルアイデンティティサイドの話になります。一方で『確かめる側』とは、本人確認をする側、つまりはKYCとカスタマーデューデリジェンス(CDD)を行うサイドの話になります。
この『名乗る側』と『確かめる側』は「対の関係」であることを前提に考えを進めていくことが大切であると、千葉は強調します。
「この2つはコインの裏表の関係であって、両面について取り組むことが大切だと考えています。今回のFIN/SUM2022では『ビジネスと暮らしの二刀流』がテーマとなっていますが、デジタル化についても、個人と企業、それぞれ二刀流の考え方が必要だと考えています」(千葉)
これについて、TRUSTDOCKではよく「デジタルtoデジタルな社会」と表現しています。名乗る側と確かめる側、どちらもデジタルにすることで、正しくデジタル社会を形成することができるというわけです。
この両面デジタル化を進めるにあたって重要なトピックの一つが、マイナンバーカードの普及でしょう。ご存知の方も多いでしょうが、マイナンバーカードは2022年3月時点で5,300万枚以上の交付を達成しており、いよいよ拡大期・普及期に突入したと言えます(運転免許証は2019年時点で約8,200万枚、パスポートは2020年末時点で約2770万枚)。これに付随して、政府もワクチン接種証明アプリにマイナンバーカードを活用しています。
ちなみにこの動きは日本だけでなく、全世界で盛んになってきています。例えばEUでは「欧州デジタルID規則案(eIDAS規則改正案)」が公開されましたし、iOSでもデジタル身分証の機能拡張がなされました。つまりグローバル各所でデジタル身分証の制度と環境の両面による検討が進んできており、専用アプリで自己証明する世界が、もうすぐそこまできている状況だと言えます。
様々なIDプロバイダーと連携してAPIエコノミーを構築するアプローチ
このような動きをいち早く想定して、TRUSTDOCKが創業時より準備を進めてきたのが、デジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」です。
このアプリでは、マイナンバーカードのICチップを読み取る公的個人認証サービスに対応している他(犯罪収益移転防止法施行規則六条1項1号「ワ」に準拠)、電子署名機能の内蔵や犯罪収益移転防止法のeKYC全手法への対応、免許証等のICチップ読取り、様々なIDプロバイダーとのAPI連携、多言語対応など、なめらかなデジタルアイデンティティ活用に向けた様々な機能を搭載したものとなっています。
「とは言え、僕らは何も新たなID帝国を作るつもりは毛頭なく、様々なIDプロバイダーさんと連携をして、APIエコノミーを構築することで、様々な確認を実施していきたいと考えています」(千葉)
また、前編でご紹介したようなBtoB領域での活用のみならず、BtoG(対政府)領域での活用についても、複数の実証実験を進めているところです。
こちらについては、前年のFIN/SUM2021イベントレポートとなる以下の記事で、詳しく説明しているので、是非あわせてご覧ください。
▶︎ デジタル・ガバメントの未来は明るい!TRUSTDOCKが進める自治体DXと金融包摂 〜FIN/SUM2021レポート前編
最後に、千葉より参加者のみなさまへ告知がなされて、プレゼンテーションは締め括られました。
「2022年4月より、デジタル身分証サービスの実証を開始します。デジタル身分証が普及し、また企業サイドのeKYCが浸透することで、個人は企業に対して自分の身分証や顔写真をばらまかなくても身元証明ができるようになり、一方で企業は必要最低限の個人情報だけを取得した上で顧客確認ができるようになります。僕たちTRUSTDOCKは、いよいよeKYCの次のフェーズへと進みます。このデジタル身分証サービスの実証に興味のある方は、ぜひ、こちらのフォームまでご連絡ください!」(千葉)
メタバースやNFT取引でも不可欠となるデジタルアイデンティティ
FIN/SUM2022では、TRUSTDOCKはグローバルな大型資金調達目指すインパクトピッチのファイナリスト8社にも選ばれ、世界的な社会課題解決とグローバル市場での展開をにらんだピッチを、英語による同時通訳とオンライン配信を通じて、世界に向けて発信しました。
惜しくも最優秀賞は逃しましたが、生活者の暮らしをより安心・便利にし、企業に競争力を与えるソリューションとして、多くの方にご評価頂けたと感じております。特に、メタバース空間における認証や、NFT販売・購入といった、喫緊のトレンドシーンにおける活用の可能性については、審査員の方の目にも止まり、ご質問をいただくことにもなりました。
ピッチ当日のTRUSTDOCKチーム in TRUSTDOCK T-シャツ
TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションを提供し、またデジタル身分証のプラットフォーマーとして様々な事業者と連携しております。
eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々に向けてはPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しており、eKYC導入までの検討フローや運用設計を行う上で重要な検討項目等を計12個のポイントにまとめていますので、ぜひご活用ください。
なお、以下の記事でeKYCおよびKYCについても詳細に解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
▶︎ eKYCとは?オンライン本人確認を徹底解説!メリット、事例、選定ポイント、最新トレンド等
▶︎ KYCとは?あらゆる業界に求められる「本人確認手続き」の最新情報を徹底解説
(文・長岡武司)