デジタル庁推進「次世代取引基盤構想」で考えるべき法人確認領域の論点とは 〜FIN/SUM2022レポート前編

イベント/セミナーレポート

更新日: 2022/04/18

目次

     金融庁と日経新聞社が2016年より共催してきた国内最大級のFinTech & RegTechカンファレンス「FIN/SUM2022(読み方:フィンサム)」が、2022年3月29日〜31日にかけて、会場とオンライン配信のハイブリッド提供で開催されました。

     今回のメインテーマは「ビジネスと暮らしの二刀流(Aiming for two-way players in both business and society)」。大谷翔平選手が投手と打者の二刀流で大リーグ野球に変革を起こし、野球ファンに多くの夢と希望を与えているように、金融の機能はいかにしてビジネスと暮らしの新時代を切り開くのか。そんな命題をもとに、金融業関係者はもちろん、技術者やアカデミア、スタートアップなど、様々なステークホルダーが国内外より集結しました。

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     レポート前編となる本記事では、その中でもTRUSTDOCK CEOの千葉が登壇したパネルディスカッション「デジタル庁が推進する経済社会のデジタル化 ~契約・決済データを利活用した新たな金融ビジネス創出について~」についてレポートします。

     デジタル庁が重点課題に掲げる「企業間の取引におけるデジタル化推進」は、2023年のインボイス制度導入、2024年のPSTNの廃止、2026年の約束手形の廃止といった電子化促進の契機に合わせ、短期的にはシステム間の連携のための標準化、中長期的には企業間取引のデータを活用した経営DXの進展やビジネスの創出を目指します。様々な取り組みの先にどのような新しいビジネス像を描いているのか、議論が深まりました。

     

    ※本記事では、セッションの中から「本人確認(個人&法人)」にまつわる部分の話を抽出して、再構成しています

    登壇者情報

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    • 千葉 孝浩(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)
    • 冨山 直道(Biz Forward 代表取締役社長)
    • 星川 高志(クラウドキャスト 代表取締役)
    • 出光 啓祐(大阪ガス 企画部DX推進室 副課長)
    • 大久保 光伸(金融庁 参与/デジタル庁 ソリューションアーキテクト)※モデレーター

    デジタル庁が推進する「次世代取引基盤構想」の概要

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     まずは冒頭に、セッションの前提知識としてデジタル庁 ソリューションアーキテクトの大久保 光伸氏より、デジタル庁が進めている「次世代取引基盤」のプロジェクト概要について説明がなされました。

     デジタル庁では、「企業間の取引におけるデジタル化推進」を重要な政策項目の1つとして定めており、商流データと金流データの融合による新しい取引の開拓・デジタル最適・国際化といった「価値の創出」を目指しています。そのためのプラットフォームとして、この次世代取引基盤の構想が掲げられています。

     以下の図で提示されているとおり、次世代取引基盤は、関連するシステムをアーキテクチャに基づいて連携させて仮想的に構築するものであり、受発注から請求、決済までを一気通貫でデジタル化することがビジョンとして定められています。将来的には、たとえば需要予測AIや与信AI、トレーサビリティの確保に向けたチェックシステムなど、標準化されたデータに合わせた様々なアプリケーション・アルゴリズムと、物流や国際取引といった各領域のモジュールとの連携の“ハブ”になることが期待されています。

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     具体的なビジネスユースケースとしては何点も挙げられますが、その中でも本カンファレンスに強く関連するものとしては、「取引データの集約と経理事務の自動化」が挙げられるでしょう。このユースケースでは、クラウドERP等を活用することで、事業者としてはクリアリングによる流動性ミスマッチの低減や、決済回数の集約による送金コストの低減、経理事務の生産性向上といったメリットの享受が考えられます。また金融機関にとっては、事業者のデータ集積・分析によるコンサルティング/融資機会の創出や、デジタルチャネルへの誘導にも繋がり、さらにシステムベンダーにとっては新規ビジネスモデルの開発にもつながることになります。

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    「この次世代取引基盤構想のプレイヤーとして、今回はeKYCの領域でTRUSTDOCKさんに、すでにビジネスを開始している事業者についてBiz Forwardさんに、我々の考えている法人ウォレット概念の部分についてクラウドキャストさんに、そして大企業のリーディングカンパニーとして大阪ガスさんに、それぞれお越しいただきました。ここからは、各社にお話を伺っていきたいと思います」(大久保氏)

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    「名乗る側」も「確かめる側」も企業であるBtoBビジネスの本人確認

     ここからは各社による取り組みの概要が紹介されました。最初にプレゼンテーションを行ったTRUSTDOCK代表の千葉からは、BtoBビジネスにおける法人による法人確認、いわゆる「法人の本人確認」の現状と課題について、説明がなされました。

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     そもそも本人確認(≒ KYC)と聞くと、多くの方はBtoCビジネスにおける免許証等を活用した「個人の本人確認」を想像される方が多いでしょう。具体的には、「名乗る側」となる個人が身元証明し、「確かめる側」の企業が顧客確認や審査を進める(いわゆるカスタマー・デューデリジェンスをする)というプロセスになります。顧客確認には、個人を特定する属性情報を確認する身元確認(Identity Proofing & Verification)や当人認証(Authentication)、反社でないかやマネーロンダリングでないか等のリスク確認、さらに資格があるか、支払い能力があるかなどの審査項目などが考えられるでしょう。

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     これが「法人の本人確認」になると、双方ともに「名乗る側」であり「確かめる側」でもある、という状態になります。それぞれが新規に取引をして良い法人なのかを確かめる必要があるわけです。

     ここでも確かめる側としては、双方で顧客確認と審査を行うことになります。顧客確認としては、まず「法人KYC」ということで、その法人が本当に存在するのかという存在確認と、それに付随する本社等の住所確認が行われます。また、それに紐つく個人のKYCとしては、代表者や役員、取引担当者、それから実質的な支配者といった対象者の身元確認と当人認証が行われます。さらにリスク確認については、個人の時と同様のAML/CFT/PEPs対応が行われます。そして許認可の有無や財務状態の確認などの審査があり、厳密に言うと、これらを両者が行う必要があるというわけです。

    「ここにおいては各社強度がバラバラであり、リスクヘッジする項目とリスクテイクする項目が会社によって異なるため、紋切り型で一律に国が決まりを作るわけにもいきません。なので、たとえば今回のような行政による次世代取引基盤の整備をするにあたり、どこまでを整備するのか、どこからが民間がリスクテイクないしはリスクヘッジする自由経済の領域なのか、といったガイドラインみたいなものが求められてくると考えています」(千葉)

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     この話を受けて、大久保氏の方から関連する話として、プラットフォームをワークさせるための“名寄せ”を行うにあたっての課題感が共有されました。つまり、プラットフォームを走らせるにあたってはユニークなIDをもつことが重要であり、当初は、電子インボイスで用いられるような「適格請求書発行事業者番号」を利用する想定だったようですが、そうなると個人事業主がスコープに入らないことになります。一方で経済産業省では「GビズID」を発行していますが、こちらもまだカバーし切れていない状況です。このような状況下において、たとえば電子インボイス推進協議会(EIPA)からよく聞こえてくるのが、「必要最低限、架空の口座でないかの確認ができればいい」という話だと言います。これに対して法人の本人確認の提供者としては、どのような意見があるのか、引き続き千葉が説明しました。

    「口座確認のデジタル化については、少なくとも金融機関さんの助けがないとできません。先ほどの図における「与信」にも関連する話だと思いまして、口座番号と必要な明細の確認が双方でできると、安心して取引できると。そこはまさに、金融機関さんが積極的にAPIエコノミー構築の音頭をとっていただく部分かなと思っています」(千葉)

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     また大久保氏からは、オンボーディング時(取引開始時)に確認した情報の定点観測、いわゆる継続的顧客管理についても質問がなされ、千葉からは「自動化の範囲にある」とのコメントがなされました。

    「たとえばTRUSTDOCKの場合、架空法人じゃないかの確認は裏側で謄本を定点チェックするような仕組みがあります。また反社チェックのような仕組みも、バックグラウンドのAPIの仕組みでご提供しているので、四半期ごと、または年単位などで定期的にAPIコールして確認できるようになっています。将来的には継続的確認のお話も含めて、全てをAPI化する方針で進めています」(千葉)

    来たるAPIエコノミーに向けて金融機関に期待すること

     この他の登壇者からも、ビジネスにおける課題や次世代取引基盤への期待が語られました。

    finsum2022_111Biz Forwardでは、請求業務や与信をすべて代行して未回収の売掛金を100%入金保証するクラウド請求サービス「請求プラス」と、既存の融資よりも確実に早く債権譲渡で資金調達できるオンライン資金調達サービス「資金プラス」を提供している

     Biz Forward 代表取締役社長の冨山 直道氏からは、日本ならではの商習慣に鑑みたプラットフォーム化への期待が語られました。

    「信用スコアというのは、BtoBではなかなか難しいかなと感じます。と言いますのも、日本全国の中小企業を含めた400万社弱に対してしっかりとデータを取れているのが、おそらくは数十万社と言われています。さらに慣行としては後払い・かけ払いがずっと残り続ける形になるので、その辺りを行政がプラットフォーム化して信用スコアを可視化する動きがあると、取引がスムーズになって経済がより活性化するのかなと期待しています」(冨山氏)

     

    finsum2022_112クラウドキャストでは、法人プリペイドカード一体型経費精算サービス「Staple」を提供しており、決済から経費管理がシームレスに繋がる法人キャッシュレスの世界の実現を目指している。これまでの法人カードのような与信が不要で、KYCおよび反社チェックの審査のみで、VISAブランド加盟店となる国内外/オンライン・オフライン5,000万店以上で利用ができる

     またクラウドキャスト 代表取締役の星川 高志氏からは、先ほどの千葉による話を受けて、本人確認領域における所感が語られました。

    「新規でKYCを行おうとするとなかなかコストがかかると思いますので、銀行口座を持っている、もしくは他にKYCをとっている既存の枠組みを利用するのが、一つのやり方ではないかなと思っています」(星川氏)

     

    finsum2022_113大阪ガスでは、BtoCにおける電力/ガスの小売のほか、再生可能エネルギー事業や海外エネルギー事業、その他周辺領域として都市開発やケミカル事業など、多岐にわたるインフラビジネスを展開している。また同社では全社を通じてDX推進をしており、時代の変化に即した新たなデジタルサービスを提供する「攻めのDX」と、業務プロセスを変革する「守りのDX」の両面で推進体制を構築している

     さらに、大阪ガスで企画部DX推進室に所属する出光 啓祐氏からは、インフラ企業ならではの視点が語られました。

    「デジタル時代、カーボンニュートラル、そしてガスでいうと自由化というキーワードがある中で、既存のパートナーと既存の取引をしていれば良いという時代から、新たなパートナーと新たな取引をする時代へと徐々に移っていると思っています。そのような中で、今後ペインポイントが明らかになってくる際に、プラットフォームの方々が具体的なソリューションをご提案し、政府側でもそれを支える動きがあると、各企業の新規ビジネスの支えになりますし、環境変化にも対応できるかなと思っています」(出光氏)

     

     最後に、金融機関へのメッセージとして千葉からは、APIエコノミーの構築に向けた“推進役”への期待が語られました。

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    「デジタル社会とは、まさに『デジタルtoデジタル』の社会だと考えていて、それ故に早くAPIエコノミーを作らねばならないと思っています。そう考えると、たとえば大阪ガスさんがガスのレシート情報をAPI開放し、それを引き回すだけで、稼働している法人か否かが分かるという、それだけでKYCが済むようなレイヤーの取引があるかもしれないわけです。このように、相互連携性のあるAPIエコノミーとして、いろんな事業者が外部API化していき、それらがつながっていった先として、今回の仮想的な次世代取引基盤のようなものが出来上がっていくのかなと思います。そういう意味でも、金融機関さん(銀行・証券・保険等)が音頭をとって様々なAPI開放を推進していただくことで、他の事業者のAPI開放にもつながるのではないかと思います」(千葉)

     

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     TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションを提供し、またデジタル身分証のプラットフォーマーとして様々な事業者と連携しております。

     また、犯罪収益移転防止法をはじめとする様々な法律に準拠する形で、法人番号や履歴事項全部証明書を活用した法人確認や代表者の本人確認などができ、自由な設計と最適な組み合わせをもってAPI導入することも可能となっています。

    ▶︎ TRUSTDOCKの法人確認サービス

     

     さらに、eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々に向けてはPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しており、eKYC導入までの検討フローや運用設計を行う上で重要な検討項目等を計12個のポイントにまとめていますので、ぜひご活用ください。

     

     なお、法人確認については以下の記事でも詳細に解説していますので、こちらも併せてご覧ください。

    ▶︎ あらゆる企業・業界で必要となる「法人の本人確認」とは?3つのチェックポイントについて解説

    ▶︎ 犯罪収益移転防止法で定められる「法人の本人確認」とは?法概要とeKYCソリューション例について解説

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    (文・長岡武司)

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