2024年11月5日、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が主催する日本最大のシェアカンファレンス「SHARE SUMMIT 2024」が開催されました。第9回目となる今回のテーマは、シェアを活用したまちづくりなどの「公民連携」ということで、当日は約100名の登壇者からなる18セッションと共創ピッチコンテストが開催され、シェアリングエコノミーがもたらす新たな地域経済圏の創出に向けた様々な事例等が共有されました。
SHARE SUMMIT 2024では過去最多となる自治体関係者130名が会場に参加し、全体でも会場800名、オンライン含め総勢2,500名の参加申込となった
TRUSTDOCKも今回はブースを出展すると同時に、TRUSTDOCKアプリの新しい「デジタルIDカード機能」にて年齢確認を行うという、実証実験付きセッションを企画。多くの方にデジタルIDカードによる年齢確認機能を体験いただきました。
TRUSTDOCKアプリでデジタルIDカードを作成(認証アカウント登録)して年齢確認を行うと、全国から厳選した各地の魅力あふれる日本酒、「ICHI-GO-CAN®」(株式会社Agnavi提供)がプレゼントされた
※TRUSTDOCKアプリについては以下の記事も併せてご覧ください
▶︎【コラム】次なる挑戦は、個人側のDX!eKYC業界の開拓者が語る、デジタルIDウォレットのこれから
シェアリングエコノミーが発達することで、多様な個人が瞬時に繋がり、様々な良い巡り合わせが生まれています。その一方で、個人間のトラブルも多発しており、公民が連携して個人が安全安心につながるための仕組みを構築する重要性が増しています。
私たち一人ひとりが自身のデジタルアイデンティティを管理する世界はどうあるべきか。本記事では、TRUSTDOCK企画のトークセッション「デジタルID革命〜デジタル社会のトラブルにどう備えるか?企業と個人のリスクマネジメントの具体策」の内容をレポートします。
登壇者情報
- 千葉 孝浩(株式会社TRUSTDOCK 代表取締役CEO)
- 玄 成秀(株式会社Agnavi 創業者&CEO)
- 羽生 祥子(株式会社羽生プロ 代表取締役社長)
- 吉田 泰己(デジタル庁 企画官)
個人データを自分自身がコントロールする世界に向けて
まずは基本知識の共有ということで、TRUSTDOCK CEOの千葉より、デジタルIDの考え方について簡単に解説がなされました。
デジタルIDとは、簡単にお伝えすると「識別子」のことを指します。より細かく表現すると、「『あるものを他とは違うものとして確立する』ことができる属性の集合のこと」だと捉えることができ、オンライン上で活用する社員番号やマイナンバーなど、さまざまなデジタル上の識別子のことを指します。
このデジタルIDを管理するお財布のような役目を果たすのが、「デジタルIDウォレット」と表現されるものになります。お財布と表現しましたが、どちらかというと、IDカードを束ねているカード入れのような位置付けの方が近いかもしれません。身元証明や資格証明、属性証明をデジタル化するためのものとして、国内外さまざまなシーンでの活用が増えてきているものになります。
「今の時代、たとえばGoogleやFacebookに『BAN(利用禁止等)』されると、日常生活に支障が出てきてしまいます。そのような状況に課題意識をもって、個人データを自分自身がコントロールする世界に向けて立ち上がりはじめているのが、デジタルIDウォレットの考え方になります」(千葉)
その一つのオペレーション実証として、今回のセッションで開催されたのが、日本酒のプレゼントに付随したデジタルIDウォレットを使った「年齢確認」です。
一般的に年齢確認と表現はされていますが、実際に生年月日から数えた年齢情報が必要かと言われると、少なくとも酒類販売時の年齢確認は「20歳以上か否か」の判断だけが必要になります。
「他にも65歳以上の方にだけお渡しする割引クーポンや、バイト面接での15歳未満か否かのチェックなど、さまざまなシーンで『◯歳以上の確認』作業が発生します。今回は、Agnaviさんが展開するおしゃれな日本酒ブランド・ICHI-GO-CAN®の受け取りに付随した20歳以上の確認をTRUSTDOCKアプリで実施する、という実証実験を行っています」(千葉)
本実証実験参加にはTRUSTDOCKアプリのダウンロードが必要であり、その上でマイナンバーカードでデジタルIDカード(認証アカウント)を作成し、上記の「20歳以上の確認」ステップを踏むことで、年齢確認が完了する流れとなっています。なお、本実証実験への参加及び特典は、当日の会場参加者のみに限定されます
行政側でもさまざまなアプリを展開
ここからは、4つのトークテーマに沿ってパネルセッションが進められました。
最初のテーマは、先ほど千葉からお話しのあった「個人が自身で個人データを管理する世界」について。TRUSTDOCKのように民間企業でアプリを展開しているケースもあれば、行政から公的なアプリを提供しているケースもあります。ここについては、デジタル庁で企画官を務める吉田 泰己氏より説明がなされました。
たとえば行政手続のオンライン窓口であるマイナポータルでは、ログイン操作している人が本人であることを証明するために、マイナンバーカードを使った認証を行っています。またマイナンバーカードの電子証明書機能のスマホへの搭載が進んでいることから(Androidでは2023年5月11日から搭載されており、iOSへの搭載も計画が進んでいる)、それを見越したスマホでの認証のための「デジタル認証アプリ」も、2024年6月24日よりデジタル庁からリリースされています。
※デジタル認証アプリについては以下の記事も併せてご覧ください
▶︎デジタル認証アプリとは?アプリの機能やユースケース、本人確認への影響について、eKYCのプロが解説
さらに、事業者や自治体のスタッフが、顧客や住民の本人確認目的でマイナンバーカードをチェックする際に利用することを想定した「マイナンバーカード対面確認アプリ」も、同じくデジタル庁から2024年8月20日にリリースされています。
「自分が自分であることの証明については、公的身分証を根拠にして行われることが多いので、それをいかにデジタルで、より確実な形で確認できるかというところのサービスをご提供しています」(吉田氏)
自身の自己証明や相手方の素性の確認について
続いてのテーマは「自身の自己証明や相手方の素性の確認について」ということで、CtoCでの取引が必要となるシェアリングサービスにおける、安全・安心のためのお互いの素性の確認についてディスカッションがなされました。
今回のTRUSTDOCKの実証で協力いただいている、株式会社Agnavi 創業者&CEOの玄 成秀氏は、酒類の販売におけるオペレーションを例に、既存のオンラインでの取引時における課題をこのように説明しました。
「結構お酒って面倒くさくてですね。たとえばお酒を蔵元さんに戻すとなった際には、オンライン上の事務処理の他に、実際にハードで蔵元さんに戻すという作業があって、それらを紐付ける必要があります。その部分はまだまだ課題が多く、ちゃんと可視化した上で取引をする必要があると日々感じています」(玄氏)
また、株式会社羽生プロの代表取締役社長であり、著作家・メディアプロデューサーでもある羽生 祥子氏は、家事代行サービスの利用経験を元に、一般消費者の目線で以下のようにコメントしました。
「家事代行って昔は本当に一握りの方々が使っているようなサービスだったと思いますが、昨今では、たとえば中小企業が従業員の福利厚生として家事代行サービスを導入する時にその利用料の3分の2を国が負担するということをやりはじめたので、一気にユーザーが増えていくと思います。そうなった時に、本当に大丈夫なのかと。CtoCマッチングとなると、いらっしゃるスタッフの方々がちゃんと身元確認できていないと不安ですよね。結果我が家は、マッチング型サービスではなく、個人指名の一番オーセンティックなサービスを使うことにしました」(羽生氏)
たとえばTRUSTDOCKを導入されている家事代行サービス提供企業では、ユーザーの本人確認のほか、スタッフの身元確認にも力を入れています。詳細は以下の記事も併せてご確認ください。
▶︎家事代行アプリの本人確認をeKYCで実現:ベアーズ様事例
自分が自分であることの証明のコストをデジタルによって下げていく
続いてのテーマは「CtoCの個人間トラブルを低減していくには」ということで、昨今の闇バイト問題のようにさまざまな事象が犯罪・課題が顕在化しています。ここに対する取り組みについてデジタル庁の吉田氏は、経済産業省に所属されていた時代に開催された「オンラインサービスにおける身元確認に関する研究会」(参考)での論点を紹介しました。
「やはり研究会で議論になったのは、匿名性みたいなものをどう考えたらいいのかということです。SNSをはじめオンラインでは匿名での活動が可能なので、それゆえに誹謗中傷なども発生している部分があります。そういった中で、最近ではSNSの中でも本人確認の機能が追加されてきているみたいなことがあると思っています。一方で今度、リアルのサービスを受けるとなったときに被害が大きくなるケースが多くなってきているとも感じます。リアルサービスが増えてくると、それだけ実物被害みたいなものも大きくなってくるからこそ、より本人確認へのニーズは高まっていくと考えています。ただ一方で、どこまでの情報が必要なのかというところで、私たち自身も出したい情報と出したくない情報がある中で、どういうふうに線を引いていくのかが難しい問題だなと感じています」(吉田氏)
このような課題感の中で、最後のテーマとして「個人が活躍するデジタル社会の未来像について」が設定され、一人ずつ考えが述べられました。
「今年6月頃にフランスに行ったときに、国全体として、デジタル情報をもとに行動審議ができていると感じました。デジタル情報を元に人々が判断をして行動を起こせるような流れができている状態が、個人が活躍できるデジタル社会なんじゃないかなと思っています」(玄氏)
「デジタル社会の中では性別をはじめ、さまざまな属性によって、特に承認・認証あたりの非対称がすごく大きいと感じています。どんな属性でも、どんな組み合わせであっても、本当にイーブン・フラットな状態になってもらいたいと思っています。これは個人の願いであると同時に、それをやることによって、今まで取りこぼしている非常に大きなマーケットをすくうことにもつながると考えています」(羽生氏)
「個人的な見解にはなりますが、なぜ公的身分証明書で自分を確認するかっていうと、要は国がその人の存在を認めているからその人が存在してるっていう、その信用をみんな確認してるということだと思ってます。今まではそれをアナログでやっていたので、余計な情報まで含めて全部確認しないといけなかったわけですが、これがデジタルの世界になってくると、一部の情報だけ相手に提供するということが可能になってくるので、自分のプライバシーを確保しながら人に情報を与える、みたいなことができるようになってきます。つまり、自分の情報をコントロールしながら、自分が自分であることの証明のコストをデジタルによって下げていくことができるわけです。そうなると、個人にとっても会社にとって、いい形の社会になっていくのではないかと考えています」(吉田氏)
当日の年齢確認実証でお寄せいただいた声
セッションレポートは以上となりますが、最後に、当日の会場内での展示ブースにおける年齢確認の実証参加者の声をご紹介します。TRUSTDOCKアプリのスマホへのインストールが必要であり、かつマイナンバーカードが手元にある必要があるということで若干のハードルがある取り組みではありましたが、多くの方にご参加いただくことができました。以下、実証参加(年齢確認完了)を終えた方々への感想を伺う中でなされたフィードバックとなります。
「電波が悪かったのでアプリのインストールに時間がかかってしまいましたが、それ以降の年齢確認処理は思った以上にスムーズでした」
「デジタル認証ウォレットははじめて利用しましたが、特に詰まるところなく操作できました」
「今回はSHARE SUMMIT出展企業のブースということで大丈夫と感じますが、よく分からない事業者のアプリにマイナンバーカードの情報を渡すということになると、ちょっと気持ち的に抵抗があるなと感じました」
「自分の場合はたまたま覚えていましたが、マイナンバーカードの暗証番号を覚えていない人も多そうなので、全員が使えるようになるには、まだ時間がかかりそうだと感じます」
さまざまな貴重なご意見を参考に、今後もTRUSTDOCKのデジタルIDウォレットでの体験を高めるべく、機能改善・追加等を進めて参りたいと考えております。当日ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
当日のブースでのTRUSTDOCKスタッフ集合写真
---
TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として、行政機関をはじめ、様々な企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションおよびデジタル身分証を提供しています。また、本人確認業務に関して関係省庁や関連団体との連携も深めており、金融庁には業務内容の確認を、経済産業省とはRegTechについての意見交換を、さらに総務省のIoTサービス創 出支援事業においては本人確認業務の委託先として採択され、警察庁には犯収法準拠のeKYCの紹介等をといった取り組みも行っています。本人確認業務のオンライン化でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
また、eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々のために、TRUSTDOCKではPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しております。eKYC導入までの検討フローや、運用設計を行う上で重要な検討項目等を、計10個のポイントにまとめていますので、こちらもぜひご活用ください。
(文・長岡武司)