日経新聞社主催のビジネスカンファレンス『金融DXサミット』(Financial DX/SUM、読み方:ファイナンシャル・ディークロッサム)が、2021年9月29日〜10月1日にかけて、東京・日本橋の会場とオンライン配信のハイブリッド提供で開催されました。
今回のメインテーマは「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」ということで、あらゆる領域におけるDX起爆剤としての金融機能にフォーカスしたセッションが多数組まれていました。
レポート前編となる本記事では、TRUSTDOCK提供のデモステージセッション「農水省の行政DX事例「デジタル身分証アプリ」初導入の裏側」についてレポートします。
農林水産省は、マイナンバーカードで身元確認が可能なデジタル身分証アプリを府省庁として初めて導入し、そのための仕組みとしてTRUSTDOCKのサービスを採用いただきました。本プロジェクトの狙いや今後の展望について、農林水産省 大臣官房 デジタル戦略グループの畠山 暖央氏にお話を伺いました。
登壇者情報
- 千葉 孝浩(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)
- 畠山 暖央(農林水産省 大臣官房 デジタル戦略グループ 係長)
農林水産省共通申請サービス(eMAFF)とは何か
今回、農林水産省がTRUSTDOCKソリューションを導入したのが、農林水産省共通申請サービス、通称「eMAFF(読み方:イーマフ)」と呼ばれるオンラインポータルサービスです。こちらは、同省が所管する法令に基づく申請や補助⾦・交付⾦の申請を、オンラインで⾏うことができるようになるというものです。農業等に従事している方は、このeMAFFを活用して、在宅にてオンラインで各種手続きが可能になるというわけです。
「農林水産には全部で3000ほどの制度がありまして、現在約900件(2021年9月30日時点)ということで、全体の約3分の1程度がカバーできているという状態です。
大きな特徴としては、職員自らが画面を作り込むことができるようになっているということで、一つひとつの申請について業者さんに作ってもらうのではなく、一般の局の一般の課の職員が作れるようになっています」(畠山氏)
また、eMAFFは地方自治体業務にも対応しているものとなります。イベント開催時点で47都道府県全てと、約100の市町村役場が利用しているとのことです。この、農林水産省が力を入れるeMAFFによる申請のデジタル化にあたって必要なことが申請者の身元確認だと、畠山氏は強調します。
「このシステムを運用していくにあたり、申請者となる農林漁業者や食品加工業者などに対して、ちゃんと身元確認をした上でアカウントを払い出す必要があります。また審査をする側、つまりは行政職員側等にもアカウントを払い出す必要があります。今日は主に前者についてお話します」(畠山氏)
オンライン身元確認の導入までの流れ
このeMAFFを使うにあたっては、経済産業省が提供する「GビズID」を取得する必要があります。これは、法人・個人事業主向けの認証基盤サービスで、1つのアカウントで複数の行政サービスへとアクセスできる認証システムになります。
通常、GビズIDで身元確認を行う場合は、法人の代表者であることを証明するために、法人印鑑登録証明書とそれを押印した書類等をGビズ事務局へと提出する流れになります。
一方で農林漁業者を考えた場合、法人化されていない事業者が多く、個人の印鑑登録証明書等を提出してもらう必要があります。各事業者に書類を準備してもらうのは結構な負担になることから、まずは農林水産省職員や自治体職員が対面で書類を確認し、問題がないようであれば「eMAFFプライム」と呼ばれる本格利用アカウントを発行できる運用にしていました。
ただし、2020年のコロナ禍によって対面対応に制限ができたことから、オンライン化への舵取りが必要になったと言います。
「審査側職員が合計20万人ほどいるのに対して、農林漁業者はおよそ140万人。一人で7人の身元確認をすればカバーできるという計算になりますが、コロナ禍の中で農林漁業者に巡回して身元確認させてくださいと回るのはさすがに大変だということになり、その流れの中でTRUSTDOCKソリューションを使うことになりました」(畠山氏)
農林水産省がTRUSTDOCKを採用した理由
アカウント取得の流れはシンプルです。gビズIDを連携させた時点では「eMAFFエントリー」と呼ばれるステータスのアカウントで、まだこの時点ではオンライン申請サービスを使うことができません。申請サービスを使うには先述した「eMAFFプライム」アカウントにする必要があり、そのための処理として本人確認があります。
eMAFF画面内の「eMAFFプライムを取得」ボタンを押すと、QRコードが表示される画面へと変遷するので、それをTRUSTDOCKのデジタル身分証アプリで読み取ることになります。
この際に必要となるのが「マイナンバーカード」。ここではJ-LISが提供する公的個人認証サービス(※)を用いた本人確認の仕組みを提供しているので、マイナンバーカードに内蔵されたICチップ情報を読み取ることで、本人確認を完了させる流れとなっています。これは犯罪収益移転防止法 施行規則六条1項1号のワの要件に準拠した仕様となっているものです。もちろん、この際にマイナンバーそのものは取得しておりません。
※公的個人認証サービスとは、マイナンバーカードに搭載された電子証明書を用いて、なりすましや改ざんを防ぎ、インターネットを通じて安全・確実な手続きを行えるための機能のことです。この公的個人認証を利用したサービスを提供するためには、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律第17条第1項第6号の規定に基づく総務大臣が認定する署名検証者である必要があります
「長い間運用して安定的に動いており、また、あらかじめAPIやSDKが用意されていてそれを利用するだけで導入ができるので、2ヶ月程度でインテグレーションすることができました。また従量課金という点も安心でした」(畠山氏)
継続的なサービス改善に向けて
今後の展望として畠山氏は、様々なユーザーに実際に触って使ってもらい、フィードバックを受けながらサービスそのものを改善をしていきたいとコメントしました。またそれに対してTRUSTDOCK代表の千葉も、官民様々なデジタル身分証アプリの導入ケースに触れ、継続的な支援の意気込みを語って会を締めました。
今回テーマとなった農林水産省での導入事例の通り、マイナンバーカードのICチップを活用した本人確認は、身分証明書や顔の撮影がいらないeKYC手法となるので、撮影に抵抗がある方も心配なく利用できるものとなっています。もちろん、今回のデジタル身分証アプリを活用する方法以外にも、TRUSTDOCKでは様々なeKYCソリューションをご提供しているので、本人確認の実装等でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
また、eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々に向けては、TRUSTDOCKではPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しております。eKYC導入までの検討フローや、運用設計を行う上で重要な検討項目等を、計12個のポイントにまとめていますので、こちらもぜひご活用ください。
なお、KYCやeKYCの詳細については、以下の記事も併せてご覧ください。
KYCとは?あらゆる業界に求められる「本人確認手続き」の最新情報を徹底解説
(文・長岡武司)