荘野和也は2019年の7月からTRUSTDOCKのCTOに就任しました。就任当時のインタビューを公開します。テックリード時代から話してもらいました。
それまではテックリードとしてeKYCのプロダクトを開発していた荘野は、当時何を考えていたのか。2021年のエンジニアディスカッション記事と比べながら、荘野とTRUSTDOCKのエンジニアチームの変遷をご覧いただければ幸いです。
編集後記には、前任の肥後(現・取締役)からのコメントも掲載します。
株式会社TRUSTDOCK CTO 荘野 和也
2007年にマークアップエンジニアとして株式会社ガイアックスへ入社。2009年からはWebエンジニアに転向し、主に社内システムの開発に従事する。その後はインフラチームに所属し、各事業のインフラ基盤を支えた。
2015年からシステム障害の対応に特化したインシデント管理ツール「Reactio」の新規開発に取り組んだ後に、2016年に創業期のTRUSTDOCKに参画する。TRUSTDOCKではテックリードとして顧客の課題解決を技術の力で導くために技術選定などを行う。
2019年7月からCTOに就任し、「本人確認APIプラットフォーム」やeKYCに対応した「身分証カメラアプリ」の開発及び統括、技術の責任者としてプロダクト戦略の策定に携わっている。東京工学院専門学校 Webデザイン科卒。
eKYCプロダクトのテックリードは、あらゆる業種・業態の顧客のニーズを満たす開発力を持つ
――荘野さんの仕事であるeKYCプロダクトのテックリードとは、どういった仕事を指すと考えていますか?(2016年〜2019年CTO就任まで)
荘野:わかりやすいようにプロダクトオーナーとテックリードの違いを考えてみますね。
プロダクトオーナーは顧客や広く世の中に必要なプロダクトを届けるという、「製品起点」の考え方をします。ステークホルダーとやり取りを重ねながら、どういったUI ・UXや機能にしたら要件に答えられるかを考えるひとだと思っています。
――プロダクトオーナーは、顧客に近い位置にいるイメージを持っているんですね。
荘野:一方でテックリードが主に考えていることは、「実際にどういう技術でいただいた要望を満たすか、明らかになった課題をいかに解決するか」なんです。具体的には、使う技術を選定したりコードを書く部分に責任を持っています。
――いわば「エンジニアの班長」といったイメージですね。
荘野:そうですね。いまは様々な事業者様に対し、使い勝手がよく、安心・安全に利用できる「本人確認APIプラットフォーム」を開発しています。他にも本人確認業務を行うオペレータが操作するwebアプリケーション、いわゆる業務システムもつくっています。
――TRUSTDOCKはeKYCを事業に活用したい多種多様な業種・業態のお客様に使っていただいていますね。
荘野:チケット二次流通や人材派遣、MVNOにCtoCのマッチングなど、多様な業種業態や満たすべき法律要件を持つお客様に利用いただいていますね。
――TRUSTDOCKでの開発の仕事の特徴はどこにあるでしょうか?
荘野:APIプラットフォームと、オペレーション業務の業務システムの開発は、一見地味に見えて、とても刺激的な仕事なんですよ。APIプラットフォームでは、お客様のそれぞれのニーズにフィットした機能をいかに汎用化して構築できるか、より拡張的な設計を組むことができるかが重要です。
――業務システムの開発にも特徴はありますか?
荘野:オペレーターがいかにミスなく高効率に業務を実施できるかを、試行錯誤しながら高速で業務プロセスと共に改善する点です。そして、それらを統合する内部設計と実装。様々な観点を考えながらものづくりを進められる仕事です。
CTOになっても「プロダクトファースト」、「エンジニアファースト」は変わらない
――テックリードとしてやりがいを感じていらっしゃると感じました。それでも、CTOになろうと思ったことにはきっかけがあったのでしょうか?
荘野:より責任をもって事業を進めたいと思う気持ちが湧き上がったんです。同時に、メンバーからも同じように「もっと裁量を持って進めて欲しい」という要望をもらいました。私の気持ちとメンバーの期待が一致したことが、CTOになった大きなきっかけです。
――CTOになってから何か変化はありましたか?仕事の時間配分など変化があればお聞かせください。
荘野:週のうち1日は各メンバーレビューほか、PdMレビューとプルリクエストレビューで5〜6割、残りは自分でコードを書いています。いまはまだ大きな変化は感じていません。確かに、これからはエンジニアの組織や文化をいかにつくっていくか、経営戦略に技術の責任者としてどう関わるかも求められるようになっていくと予想しています。けれど、TRUSTDOCKも私も、これまでもプロダクトファーストであり、エンジニアファーストでしたし、今後もその方針は変えることはありません。
――プロダクト、エンジニアファーストであることがわかる例は何かありますか?
荘野:例えば、技術選定についても一緒に考えていく方針です。TRUSTDOCKはRuby on Railsで開発しています。でも、セキュリティーや技術の要件をクリアしていった上で、自分たちがコアな部分に集中できるためであれば、いま使っているフレームワークなどの技術を捨てることも柔軟に行います。
――CTOが選んだ技術を言われた通り使うチームではないんですね。
荘野:部下が欲しいわけではないですしね。少数精鋭で開発を進めていく中で課題を発見・提案し、解決策となるソリューションを共につくっていきます。
――CTOになって、プロダクトや会社に対する思いがさらに強まりそうですね。
荘野:ありがたいことに、TRUSTDOCKと自分のシナジーを強く感じています。以前から水道やガス、電気といった生活インフラになるようなプロダクトを開発したいという想いを持っていました。TRUSTDOCKはまさに社会を支えるインフラになる可能性を秘めているんですよ。
――「社会を支えるインフラ」というと、どういったものでしょうか?
荘野:例えばSuicaの登場によって交通のシームレス化が進み、いまでは当たり前の存在になりましたよね。Suicaが交通におけるインフラになったように、TRUSTDOCKは本人確認・eKYCにおけるインフラになって、世の中をより良い方向に動かしていきます。
eKYC領域の開発は、セキュアと利便性を高いレベルで両立させる仕事である
――CTOになった背景とTRUSTDOCKの社会インフラになるポテンシャルをお聞きしました。ここからは、プロダクトの技術的な特徴についてお聞かせください。
荘野:セキュリティーに関する部分は外せません。TRUSTDOCKは本人確認をする際に身分証の提示があったりと、一般のサービスに比べるとよりセンシティブなデータを扱うことが多いです。こういったセンシティブなデータをセキュアに取り扱って、なおかつ使い勝手の良いプロダクトに落とし込んでいく。これが、TRUSTDOCKのエンジニアに求められることなんです。
――セキュアと利便性の両方を追求するんですね。
荘野:確かにセキュアと利便性のどちらも技術的に成り立たせることは、難しい仕事でもあります。お客様の業界によって満たすべき法律の要件も変わりますし。でも、だからチャレンジのしがいがあるんですよね。
――一人で解決できない問題も発生しますか?
荘野:そのことを見越して、TRUSTDOCKの開発スタイルは少人数でコミュニケーションを重ねつつ、議論が生まれるようにしています。その一つの具体例がペアプログラミングですね。
――ペアプログラミングを採用している意図はどこにあるのでしょうか?
荘野:少数精鋭、少人数だからこそコミュニケーションを直に取ることで、そのコミュニケーションコストを下げたいという思いがあります。それに、直接フィードバックし合った方が意思疎通が図りやすいですしね。セキュアと利便性のどちらも実現するために、開発環境の質は常に高く保てるように工夫しています。
TRUSTDOCKは受託開発ではない。「標準化」をつくるeKYCサービス事業者である
――セキュリティーの他に、技術的な特徴はありますか?
荘野:TRUSTDOCKが目指すのは「標準化」です。例えばお客様企業がA社、B社、C社の三社があったとします。TRUSTDOCKはそれぞれの企業にカスタマイズするのではなく、「本人確認のスタンダードはこういったものです」というように確認すべき事項を私たちが打ち出していくんです。
――顧客をリードする立場でもあるんですね。
荘野:そうですね。受託開発というよりも、eKYCのサービス事業者なんです。「こういうものをつくってください」という要望を待つのではなく、「こういう風に使ってください」とお客様にご提案するのがTRUSTDOCKの開発姿勢なんですよ。標準化のための設計や開発は、まるでパズルのような作業なんですよ。各業界によって異なる法律の要件があって、セキュリティーや利便性を同時に追求してほしいというお客様の要望もあります。それらを組み合わせていかに標準化できるかを日々模索するんです。
――組み合わせを実現するパズルの思考も生かせるんですね。
荘野:このパズルが解けて、実際に使ってくださっている事業者様から「使いやすいAPIだね」とお褒めの言葉をいただく時に「エンジニア冥利に尽きる」と実感できます。
――提案していく立場となると、法律の知識も必要になりそうですね。
荘野:確かに法律の知識は業務を進める中で求められる場面はあります。でも、入社時に必須ということはないですよ。私自身もTRUSTDOCKに入った当初は、法律の知識は全くありませんでした。
――法律の知識は、自分で勉強して身に付けていったのでしょうか?
荘野:様々な事業者様のニーズに応える中で、それぞれの業種に対する法律要件を日々学んでいきました。法律は細かい点が変わることも多いんです。だから「法律とはこういうものだ」と固く考えすぎずに、柔軟に対応していく姿勢の方が求められているはずです。
――前CTOで現在は取締役の肥後さんも「法律は論理的に組み立てられているから、エンジニアという論理に強い人たちは馴染みやすいのではないか」とお話されていましたね。
荘野:私も「法律はロジックの組み合わせ」だと感じますね。「内容が固そうだな」と思いつつも、条文を読んでみると納得できますし、理解もできます。
それに、メンバー全員で法律を紐解いていくことも多いんです。例えば法改正があったときに、どの部分がどのようになぜ変わったのかといった背景から考えたり、改正前はどういう状態だったのかを話し合います。だから一人で勉強するという形でもないですし、私もキャッチアップしやすかったですよ。
技術の力で社会インフラをつくる。eKYC領域なら、挑戦できる環境がある
――これからはCTOとしてエンジニアの採用にも裁量を持って関わっていくことになりそうですね。
荘野:そうですね。「標準化への興味」の他に、TRUSTDOCKで活躍していただけそうな人の特徴は、「社会貢献性への関心」ではないでしょうか。私たちは創業してから一貫して水道やガス、電気といった生活インフラになるようなプロダクトを開発したいという想いを持っています。TRUSTDOCKはまさに社会を支えるインフラになる可能性を秘めているんですよ。
――「社会を支えるインフラ」というと、どういったものでしょうか?
荘野:例えばSuicaの登場によって交通のシームレス化が進み、いまでは当たり前の存在になりましたよね。Suicaが交通におけるインフラになったように、TRUSTDOCKは本人確認・eKYCにおけるインフラになって、世の中をより良い方向に動かしていきます。
――生活者としても、本人確認をする機会が増えたと感じます。
荘野:そうですよね。TRUSTDOCKが社会に広まれば、世に出るサービスは一気に増えて社会はどんどん便利になっていきます。こういった「TRUSTDOCKを通じて社会インフラを作つくること」に技術の面から貢献したい方にとって、やりがいのある環境があるはずです。
――TRUSTDOCKが解決している本人確認・eKYCの問題は、幅広い業界に点在しています。
荘野:金融業界、人材業界もあればエンタメ業界も範囲に入ります。CtoCで個人同士が出会うサービスでも本人確認は求められますよね。日本を支えてきた従来の産業と、ここ数年で生まれた新しい産業のどちらからもTRUSTDOCKは求められているんです。「社会インフラをつくること」に、技術の面から貢献したい方にとって、挑戦しがいのある領域が本人確認・eKYCです。
――新しい知識がどんどん吸収できそうな環境ですね。
荘野:発見の連続の日々ですね。「お財布から身分証がなくなる」未来はもうすぐそこまで来ています。その近未来の中で、TRUSTDOCKはデジタル身分証を実現する社会インフラでありたいと思っています。先の大きな夢を見据えつつ、現状の課題を解決するプロダクトを届けていきます。
編集後記
最後に前CTO、現在の取締役の肥後からCTO変更のご挨拶をさせていただきます。
肥後:ネット上のサービスで本人確認(身分証などの画像をアップロードする)を求められるケースは昨今、急速に増えています。アナログ(対面)で身分証を見せるケースはこれまで、行政手続き、金融取引をはじめたくさん行われていました。一方で、ネット上だと、非対面が前提であり、かつ、PCやスマフォの向こう側のユーザーをどう確認するのかという手法については、全くと言っていいほど確立されていません。ユーザー体験も貧弱です。
今回の体制変更は、技術選定にしろ、ユーザー体験にしろ、刻々と変化する最新の情報と状況に向き合い、適時に打ち手を進めていくために行いました。TRUSTDOCKでは、多様な人材、力を結集してことに当たりたいと考えています。引き続き、私たちと一緒にeKYC市場を牽引したいと考える仲間を募集中です!