2023年9月5日〜8日にかけて、東京・日本橋の会場とオンライン配信のハイブリッド提供で開催された、日経新聞社主催カンファレンス『超DXサミット』(Super DX/SUM、読み方:スーパー・ディークロッサム)。
今年は「リアルとデジタルが 一体化した時代を生きる」というテーマのもと、様々な産業領域においてDXをリードする大企業やスタートアップ、政府・自治体、アカデミア等のメンバーが集結し、境界・限界を取り払った議論やネットワークを展開しました。
レポート前編となる本記事では、TRUSTDOCK 代表取締役CEOの千葉 孝浩が登壇したシンポジウムの様子をレポートします。
テーマは、マイナンバーカードの民間における活用についてです。「個人や法人の情報管理をいっそう効率化し、国民の利便性の向上と行政運営の効率化に資する」というマイナンバー法の理念に立ち戻り、無謬性の原則にとらわれがちな政府や官僚に頼りすぎず、民間主導で豊かなデジタル社会を実現するためには何が必要なのか。マイナンバーカードを活用したDXプロジェクト等に取り組む事業者が活発に議論しました。
パネル:「民間主導で進める豊かなデジタル社会 〜マイナカードはこうすれば国民の利器となる」
- 千葉 孝浩(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)
- 日下 光(xID 代表取締役CEO)
- 高橋 信行(アフラック生命保険 DX推進部 部長)
- 大林 尚(日本経済新聞社 編集委員 / 武蔵野大学 客員教授) ※モデレーター
漠然とした不安を凌駕するのは「圧倒的な利便性」しかない
最初の議題は「マイナンバーカードとマイナンバー制度の可能性を縦横に語ろう」ということで、最初にコメントしたのはxID株式会社 代表取締役CEOの日下 光氏です。同氏はこの他にも、一般社団法人Govtech協会の代表理事や、一般社団法人デジタルアイデンティティ推進コンソーシアムの理事も務めており、マイナンバーカードの利活用に向けて官民共創で取り組むための土台作りを進めている人物です。
日下氏によると、マイナンバーカードへの期待値は官民ともに高いものの、民間分野での活用はなかなか広がっていないといいます。
「そもそも、保険証や運転免許証と紐づけるというのは“土台作り”の話であって、それを使って何ができるのか、というところで初めて“利活用”になると考えています。一方で自治体さんを見てみると、マイナンバーカードの利活用はかなり進んできています。コロナ禍におけるオンライン手続きをはじめ、最近ではMaaSの取り組みや施設予約等、いわゆる住民認証の用途で利活用が広がってきていると感じています」(日下氏)
これに対してTRUSTDOCKの千葉は、同社のeKYC(オンライン本人確認)サービスを通じて行政や民間企業へ提供している公的個人認証サービスの利用が、2021年7月〜12月の半年間を基準にして2023年1月〜6月で「約22倍」に増加したという調査結果を引き合いに出しながら、マイナンバーカードの民間利用の拡大に向けた期待を述べました。
「マイナンバーカードには氏名や住所、生年月日など、個人にまつわる正しい情報が入っています。もしかしたら今後、マイナンバーカードを起点にすることで、様々なサービス毎にそれらの情報を打ち込まなくても良い世界が来るかもしれません。そのように考えると、これまで以上の利活用の伸びが今後さらに期待できるのではないかと考えています」(千葉)
また日下氏は「マイナンバーカードへの漠然とした不安を凌駕するのは圧倒的な利便性しかない」と強調し、自治体との具体的な取り組みについて説明しました。
「大きく3つの取り組みが考えられると思うのですが、まずは地道な啓蒙作業が大切だと感じています。民間企業では、利用できる本人確認書類の例として一番上に運転免許証を表示しているところが多いかと思いますが、例えば浜松市では、これを順次マイナンバーカードに差し替えてもらっています。ただ印刷し直すだけの作業なのですが、これを全国の自治体で順次取り組んでいるところです。また、万が一落としてしまっても大丈夫なものだという認識を広げてもらう意味も込めて、自治体によっては、あえてマイナンバーカードの空き領域を使ってマイナンバーカード自体でMaaSに乗れるような仕組みを作っているところもあります。あとは、マイナンバーカードをスマホのアプリにして、持ち歩かなくてもいいようにするという取り組みも考えられます」(日下氏)
頻度高くオペレーションをしてもらうような設計が大事
続いてのテーマは「マイナンバーカード・マイナンバー制度を本物の利器にするためのわかりやすくシンプルな説明にはどんな工夫が必要か」ということで、まずはアフラック生命保険株式会社にてDX推進部 部長を務める高橋 信行氏は「民間からの良いサービスを増やすことが大切だ」とコメントしました。
「日々DXを推進しているわけですが、どんなにうまく説明してもなかなか伝わらないのかなと感じることが多々あります。きっとマイナンバーカードも同様で、デジタル庁がどんなに説明したとしても、なかなか分かってもらえないのではと感じます。そう考えると、先ほど日下さんがおっしゃった『圧倒的な利便性しかない』というのは、本当にその通りだと感じています。ですから、民間が良いサービスをどんどんと提供し、漠然とした不安から漠然とした高揚感へと切り替えていくような活動が大切だと思います」(高橋氏)
また、TRUSTDOCKの千葉は「頻度高くオペレーションをしてもらうような設計が大事だ」と意見を述べます。
「例えばスマホにかざしてマイナンバーカードのICチップを読み取るというオペレーションを考えた時に、スマホのどこにかざせばよいのかとか、まだまだ慣れていらっしゃらない方も多いのではないでしょうか。初期のQRコード決済も一緒です。最初は絶対に普及しないと言われていましたが、今では非常に便利ですよね。利便性を高めると同時に、いかに多くの回数を国民の皆様に触れていただくかという設計が重要なんだろうなと思います」(千葉)
xIDの日下氏も同様に、「いかに民間起点でタッチポイントを増やすかが大事だ」と続けます。
「行政手続きが便利になると言っても、多くの方は年に数回あるかないかの話ですよね。そうなるとどうしたって、マイナンバーカードの暗証番号なんて忘れてしまいます。高齢者だから忘れる、ということではいないと思います。だからこそ、保険や金融など、日常生活に溶け込んで当たり前に使えるようにならないと、千葉さんがおっしゃる“慣れ”には近づかないだろうなと考えています。マイナンバーカードの肝は公的個人認証にあると思っており、今は必要ないと考えている人も、本当に便利なものが出てくれば“必要になってしまう”ことになると思っています」(日下氏)
無理のないデジタル・インクルージョンのためにできること
デジタル庁ではミッションとして「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」を掲げている通り、マイナンバーカードの活用に関しても、無理のないデジタル・インクルージョンが重要であると言えます。では、具体的にどのようにして「無理のないデジタル・インクルージョン」は実現するのでしょうか、という大林氏の問いに対して、高橋氏は以下のように考えを述べます。
「すべてデジタル化できるかと問われると、それを選択しない方々も絶対にいらっしゃいます。ですから、そういう方々に対する別の選択肢というものも考えていかねばならないと思います。もちろん、将来的にはデジタルだと感じないレベルでテクノロジーが浸透する社会が到来すると考えているので、そこに向かって民間主導で、まずはより多くの人が選択するようなサービスをご提供することが重要なのではないでしょうか」(高橋氏)
一方で日下氏は「デジタル・インクルージョン」という言葉そのものに大きな違和感を感じていると言います。
「デジタル・インクルージョンやデジタルデバイドという言葉を聞いて必ず皆さんが連想するのが、高齢者が取り残されるということなんです。でも、60歳でスマホをものすごく積極的に使っている方もいるわけですよね。ここで絶対にやってはいけないことが、高齢者向けのシステムやスマホ、アプリを作ることだと思います。と言いますのも、デジタルデバイドの本質的な問題は“ソーシャルデバイド”だと思っていて、もしも身近に教えてくれる人がいたら、みんなデジタルを使えるようになるわけです。デジタルはあくまでツールなのであって、デジタルを使って人が人に向き合う時間を増やそうということが究極的なゴールであると。つまり、デジタルデバイドというものは存在しないと、私は考えています」(日下氏)
ここまでの議論を踏まえて、最後に千葉より締めのコメントが寄せられました。
「僕らが2017年に創業した際に総務省さんとマイナンバーカードの実証実験をやった時は、周囲からそれこそ『マイナンバーカードなんて…』と言われていました。それから6年が経過し、現在に至るまでマイナンバーカードはどんどんとアップデートされていき、交付枚数も急増して、ユースケースも増えてきています。今色々なニュースが出てきていますが、それはちゃんと社会実装が進んでいるからだと感じています。あとは、これをどれだけ加速していけるかということだと思うので、ここにいる皆さんと一緒になって取り組んでいけたらと思っています」(千葉)
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TRUSTDOCKでは、“本人確認のプロ”として企業のKYC関連業務をワンストップで支援するAPIソリューションを提供し、またデジタル身分証のプラットフォーマーとして様々な事業者と連携しております。府省庁においては、金融庁には具体的な業務内容の確認を行い、総務省のIoTサービス創出支援事業では本人確認業務の委託先として採択されました。また、警察庁には犯罪収益移転防止法準拠のeKYCの照会等を行い、経済産業省とはマイナンバーカードを活用した実証実験や省内開催の研究会等でご一緒しています。
マイナンバーカード等を活用した本人確認業務のオンライン化を進める際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
また、eKYCソリューションの導入を検討されている企業の方々や、実際に導入プロジェクトを担当されている方々に向けてはPDF冊子「eKYC導入検討担当者のためのチェックリスト」を提供しており、eKYC導入までの検討フローや運用設計を行う上で重要な検討項目等を計12個のポイントにまとめていますので、ぜひご活用ください。
なお、以下の記事でeKYCおよびKYCについても詳細に解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
▶︎eKYCとは?オンライン本人確認を徹底解説!メリット、事例、選定ポイント、最新トレンド等
(文・長岡武司)