世界的な外資系企業の求人ではGR(Goverment Relations)の文言が見られるようになっています。日本でもGRは注目される仕事になりつつあります。
その中でTRUSTDOCKもGR専任者と事業開発を進めたいと考えています。なぜ本人確認市場でプロダクトを展開していたTRUSTDOCKが、「法律・政策のプロと本人確認市場を次の段階へ進めたい」と考えているのか。
その真意と描いている未来をCEOの千葉孝浩と取締役の肥後彰秀の対談でお伝えします。
株式会社TRUSTDOCK CEO 千葉孝浩
株式会社TRUSTDOCK 取締役 肥後彰秀
eKYC市場は新しい段階に入りました。ここからは法律のプロの方としか進められない領域です
――民間事業者だけでなく地方公共団体や中央官庁のデジタル化の動きも活発化しています。この流れもあり、TRUSTDOCKではGR(Goverment Relations)に取り組んでいるのでしょうか?
肥後:eKYC市場の成熟度が4段階あるとしたら、いまは3段階目くらいに入ったと思っています。KYCプロバイダーと呼べる専門事業者が認知されてきて、この先は一定の認定を受けたり登録制となったりするなども含め、デジタル身分証を発行する手前まで来ている段階です。
――これまでにはどんな段階があったのでしょうか?
肥後:1段階目はいわばeKYC前夜です。各事業者がリソースを抱えて、各社の業務の中に本人確認業務が組み込まれて実施されていました。eKYC業務に求められる精度や厳格さは法令、自主規制、事業者の独自基準、と様々ですが、本質的にはPCの向こう、スマホの向こうにいる自社の顧客の身元を確認するために似たような業務を各事業者が実施している段階です。ただ、ここには多くの手間が発生して事業運営を圧迫していました。また各事業者が各々リソースを抱えている状態を社会コストとして捉えると大変非効率であったと考えます。
2段階目では、各事業者からeKYC業務を業務委託の形で、専門の事業者に切り出すようになります。共通化の一歩手前ですね。TRUSTDOCKが事業を始めようと思ったきっかけもここにありました。
千葉:3段階目で、これまで各社で負担していたeKYC業務が軽くなることを超えて、不要に近い状態になる。これがTRUSTDOCKが複数の事業パートナーと連携してプロダクトを展開することで実現しつつあります。
――4段階目はどういった状態なのでしょうか?
肥後:デジタル身分証を発行してあらゆる本人確認手続きでデジタル身分証を利用できるようにすることで、「お財布から身分証がなくなる」状態だと考えています。これは、ユーザーの財布から身分証がなくなってよかった、というだけではなく、eKYCが、デジタルで・簡単に・すばやく・正確に(=偽造なく)行われることで、あらゆる手続き時に本人確認のプロセスを入れることができ、不正を防ぐことができる状態を指していると思います。私たちは、まさにeKYC市場を4段階目に進めるために、法律・政策の専門家の方にGR専任担当者としてリードしてほしいんです。まだおぼろげなイメージしか持てていませんが・・・。
千葉:大きな絵は描けています。eKYC市場は、KYCの専門事業者を求めています。各社毎に本人確認作業をしていては無駄が多いからですね。だから、運転免許証やパスポートと並ぶ本人確認書類を発行する「身分証発行機関」が現れることが4段階目なんだろうと仮説を立てています。「身分証発行機関」は、国や地方自治体をイメージすると思いますが、その中でも「準公的な身元保証機関」が存在することで利便性を発揮するシーンも海外では多く見られます。これはTRUSTDOCKの最終的な姿でもあります。
肥後:例えば、海外を旅行していて身元の証明を相手に伝える機会が出たとします。その時にパスポートを忘れても、TRUSTDOCKのアプリをインストールしていればOKという世界ですね。
千葉:そうですね。この段階の解像度を上げると、まずeKYCに関する法律が的確に守られている状態があります。次に私たち生活者の個人情報が個々人の権利として守られている状態があります。そして、生活者が不正に個人情報を利用されてしまわない状態と、そもそもの不正が発生しない仕組みが機能している必要があります。TRUSTDOCKは、この4つの状態を成り立たせる仕組みやプロダクトをつくりたいんです。
肥後:生活者が不正に個人情報を利用されてしまわない状態、というのが、最近特に課題の温度感が高まっていますね。内定辞退予測データの販売などのニュースも過去には最近ありました。(2019年)個人情報の取り扱いに関わる我々としては、法律を遵守していたとしても、生活者に不利益な情報が本人が無自覚に流通してしまうのは、社会にとって好ましくないと考えています。もちろん、自身の個人情報を伝える(名乗る)上で本人がコントロールし、権利を行使することも両立させる必要があります。
GRは自社の利益のための根回しではありません。社会的な便益を追求する動きです
――eKYC市場を4段階目に進める、「お財布から身分証をなくす」ためには、どんな要素が必要なのでしょうか?
千葉:3つの標準化だと考えています。ルールの標準化、技術の標準化、本人確認に関わるプレイヤーの足並みの標準化です。
肥後:まず技術については、1社または集まれる数社で技術、正確にはインターフェースを揃えるだけでは、世の中であまねく通用する仕組みにはできないと考えています。技術の面から日本だけでなく世界ともつながった技術標準が必要です。現在、世界地図は国とその規制で塗り分けられていますが、各国の生活者はこの境界を超えて自由に移動したりサービスを享受したりしています。ルールの標準化も日本国内はもちろんのこと、国際協調の中で標準化されていく必要を感じています。そしてプレイヤーについては、あらゆる事業者、監督官庁、加えて、昨今では生活者も重要なステークホルダーになっており、監督官庁が事業者を規制するアプローチだけでは世の中はコントロールできないほど多様化、分散化が進んでいます。個人主権の議論、C2Cのサービスの流れ、分散型金融の流れ、など様々な変化が始まっています。
実際にどうやったらこの3つ巴の状態を進めていけるのかについては手探り状態なのですが、その上で一つ気になっているキーワードがあります。それが「イシュー化」です。「ここが問題だ」とただ外野から論評して現実は動きません。社会全体が「それは解決すべき問題だ」と認識できるような問題の切り取り方をして「ではどうすればいいのか」といった解決策を政府・自治体、民間事業者、生活者といった社会全体で話し合っていく過程を作ることが必要です。
千葉:なぜイシュー化する必要があるのかというと、本人確認は個人にとっても社会にとっても血流と呼べるほど大切なものだからなんです。例えば本人確認は、ゆりかごから墓場まで影響する領域と言えます。まずこの世に生まれたときから戸籍に登録されて、成長していく教育を受けたり就職したりする過程でも本人確認は行われますよね。
――家を借りる時も結婚する時も問われますね。
千葉:さらには最終的に亡くなったときや相続のときにも問われます。本人確認はライフステージの随所に必要な一生ものなんですよね。個人からすれば「自分は何者なんだ」、国や社会からすれば「どう本人だと確認するんだ」をテクノロジーの力で取り組んでいるのがTRUSTDOCKです。
肥後:一社では完結できないほど社会的な便益も大きいですよね。
千葉:そうなんです。本人確認の領域は公益性が高いから、私たちはtoC向けの直接的なサービス、アプリケーションを提供しません。一つのサービス提供者になってしまうと、自己の中で利益相反が発生し、社会のために事業を展開できなくなるからです。
肥後:TRUSTDOCKが社会的な便益を追求する公共的な存在であるためにも、eKYC市場を4段階目に進めるためにも、法律の専門家の方の力をお借りしたいんです。具体的に「この仕事をお願いします」というほど明確になっていません。一緒に相談し、周囲を巻き込み、工夫・トライをしながら進めていきましょう、というなんともふわっとしていますが、まず気持ち、気概を伝えたい。
千葉:ありがたいことにTRUSTDOCKは複数の業界団体への関わりやWG(ワーキンググループ)への参加も増えています。でも、まだ呼ばれて参加している存在です。
肥後:リアクティブからプロアクティブになると言うんでしょうか。待つだけでなく積極的にリードしていきたいですよね。
――法律のプロの方の力で、eKYC市場の段階を進められるんですね。
千葉:法律のプロの方は、まさにルールをつくっている存在です。法律ドメインの方がどう動かれるかで世の中のビジネスの形は変わります。全て変わるとさえ言えるでしょう。それくらい大きな力を持っています。
肥後:一企業の内部でも、法律の影響力は同じように大きいです。法務担当がどんな見解を示すかで、会社の方針そのものが変わります。それくらい法律の力は社会においても一企業においてもパワフルなんです。eKYC市場を4段階目に進めるには、このルールをつくる法律の力が必要なはずです。
法律のプロは、社会が変わる節目にこそ活躍します。eKYC市場は、もう一度ルールをつくり直すタイミングに入りました
ーーイシュー化がキーワードと捉えているということは、GR専任者の仕事はTRUSTDOCKの利益になるように政府や自治体に根回しすることではないようですね。
肥後:一社だけの利益になるような働きかけは、一切通用しないですね。例えば個人情報の扱いや、不正や反社会的勢力といった社会全体で防ぐ必要があるケースの枠組みをどうつくるか。そのためにこれまでの法律や仕組みのどこを守って、どこを新しくするか。せめてこれくらいの粒感で働きかける必要があると思います。
――eKYC市場は、社会全体で考える問題ですからね。
千葉:コロナの影響であらゆる領域でデジタル化が急激に進んだことで、さらに法律の影響力が増しています。その影響力は、アナログ領域に多い「これまでの法律の積み重ねに対する答え合わせ」を超えます。デジタルに置き換わりつつある領域では、今まさに法律や規制がつくられはじめています。
肥後:答え合わせではなく「どう解釈するか」も含めて「そもそもない領域をつくりに行く」仕事が求められるようになっていますよね。
千葉:「規制をどう掻い潜るか」といったハック的な目線でもないですよね。「その法律で何を守りたかったのか」といった本質論が展開されているのが、今のeKYC市場です。法律を生業にしている方のための市場と言えるでしょう。
肥後:デジタルの流れが一気に進んだことで、今まさに法律の力が求められる段階に入りましたよね。例えば2020年の7月8日に政府と各経済団体が連名で、「『書面、押印、対面』を原則とした制度・慣行・意識の抜本的見直しに向けた共同宣言」を出しましたね。「所詮民民の話」が臨界点になったように思いますが、世の中が一気に動き始めました。
千葉:そうなんです。社会は急に変わるんですよね。今はまさに明治維新で政府が変わり、ゼロから国家のストラクチャーをつくる時期とも言えます。法律のプロの方には釈迦に説法ですが、国をつくることは「法律をつくること」と同義ですよね。
肥後:今はアナログ前提の社会から、新しくデジタル前提の社会をつくるタイミングです。私たちは、明治維新のときのように社会の枠組みそのものが変わる節目に立っているかもしれないですね。
千葉:そうです。これもまた法律のプロの方にとっては周知のことですが、社会が変わるときに必要な視点は、社会のルールである法律を本質から考え直す力です。法律の大きな影響力と公共性の高さを信じる方と、新しいデジタル前提社会をつくるためにGRを推進していきたいですね。
肥後:私もこれまでのTRUSTDOCKの事業運営の中で、実際に関わりの深い法律が改正されていく過程を経験したことで「政策はつくれる」ことを肌で感じてきました。どこかで聞いたキャッチコピーみたいですが、そんなカジュアルな気持ち、楽しむ気持ちも重要だと思っています。法律のプロの方の知見とTRUSTDOCKが蓄積している本人確認の知識と技術を融合させて、次の社会の枠組みをつくりたいと思います。
編集後記
千葉と肥後からなぜTRUSTDOCKがGR専任者との出会いを願い、どんな社会をつくりたいかをお話しさせていただきました。
本人確認市場は個人にとっても社会にとっても、一生関わる社会的な課題です。そこには法律の本質を捉え、公共性を志向する専任者の力が必要不可欠です。
私たちだけの力では、本人確認市場をより公共性の高い領域に変えることはできません。ぜひお力をお貸しいただき、TRUSTDOCKを「法律×事業運営」のキャリアを積む場としてご検討いただけますと幸いです。
お待ちしています。
TRUSTDOCKは積極的に採用活動をしています
TRUSTDOCKはeKYC市場の段階を進める仲間を積極的に募集しています。
こちらからエントリーいただけますと幸いです。
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